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初診時における患者さんへの接し方

◆基本的な心得

 患者さんとの間の信頼関係を形成するうえで、初診時での接し方はきわめて重要になります。不安を抱えて来院した患者さんの気持ちを理解し、温かい心で迎え入れ、寛容の態度で接していることが伝わるようにします。そうすることで、患者さんには医療者は自分の味方であるという安心感と信頼感が生まれるのです。患者さんが1人で来院した場合は良いのですが、親と同伴の場合は面接の際に親が同席してもよいかを尋ねます。同席してもよい場合は、患者さん中心に面接をすすめ、時には親からも意見を聞きます。同席を拒否した場合は親に退席をしてもらい、後で面接することにします。その際は医師と親が共謀しているような印象を与えないことが重要です。


 まず本人との面接では、よく患者さんの話しに耳を傾け、素直に言い分を聞いてあげることが大切で、最初から症状について詳しく聞き出すような深追いはしないことです。本人と親との話しが食い違っていても、問い正したり指摘したりしないことです。また、嘔吐や下剤の乱用については最初から言及しないことです。患者さんはある種の後ろめたさをもっていて、最初から話さないケースがしばしばあります。治療における信頼関係が深まれば、自ら語りはじめることがあります。中にはひねくれた態度をとったり、投げやりに答えたり、無口になってしゃべらない患者さんであっても、決して焦らず根気よく接していって、治療を急がないことです。症状は患者さん達に共通している面も多くありますが、患者さん一人ひとり異なった側面もあることを知っておく必要があります。もうひとつ、患者さんの特徴的な言動には二面性があるということです。自己卑下しながら高い理想をもっている、反抗するがそれは従順な気持ちの裏返し、ひねくれの態度の裏には強い依存心が、投げやりの裏には救いを求める気持ちがあることを、十分に心しておく必要があります。その心を敏感にキャッチしないと、患者さんとの信頼関係は成立しません。


◆神経性無食欲症の患者さんへの接し方

 初診の患者さんの治療に対する動機づけの程度を分類すると、

  • @自分の今の状態を病気と認識していない段階、
  • A問題意識は芽生えているが、食行動を変えようとしていない段階、
  • B自分の今の状態を変えねばならないと考えている段階、
  • C治療を受けてきたが、うまくいかず転医してきた段階、
 の4つに分けられます。


@『自分の今の状態を病気と認識していない段階』
 親に強制的に受診させられた場合、患者さん本人は、自分の食行動や痩せに関して問題があるとは考えていません。つまり、病識がまったくない状態です。したがって、病気ではないから治そうとも思わないし、今の食行動を変えようとも思わないのです。そこで、病識がない患者さんに対して動機づけをするには、治療を急がずに、まず今の状態が病的状態であることを理解させることから始めなければなりません。神経性無食欲症の患者さんの場合は、この病気の身体症状や精神症状について解りやすく話してあげることです。特に身体的には単に痩せている状態ではなく、重大な事態に陥っていて死に至る場合もあることを丁寧に説明する必要があります。それと同時に、治療目標についても、正常な食事パターンの回復と日常生活に支障をきたさないように体力の回復が必要であることを説明します。決して肥満させることではないことを明確に伝えます。さらに、家庭や学校や職場で起こした不適応な心理的問題の解決も治療目標とします。そして実際の治療においては、一方的に食べることを強要するのではなく、正しい食習慣のあり方や、体重のコントロールの正しい方法を学ぶことも説明していきます。こうした初診時の地道な対応によって、患者さんは今の自分が病気の状態であることを知り、治療を受け入れようという気持ちになるのです。  しかし、それでもなお治療に対する動機づけができない場合は、現在の状態(痩せ、大食、嘔吐など)を続けることによって「得ること」と「失うこと」を、紙に箇条書きにして1週間後に出してもらいます。その結果について、患者さんと一緒にゆっくり考える時間をとります。そこで「得ること」が多ければ今の状態を続け、治療を受ける必要はないことを伝えます。また「失うこと」が多い場合でも、治療を受けるか受けないかは患者さん自身が決めて下さいと説明します。大事な点は、本人の意志を無視した形での一方的な治療は行わないことを約束し、確認しながら根気よく進めていくことです。  しかしそれでも、明らかに失うものが多い(健康を損なう)のに治療を受けようとしない場合でも、本人の治療を「受ける」「受けない」の意志を確認して、あくまでも強制的に治療をしないことを伝えます。その際に本人と家族には、内科的な緊急事態になった時は、救急病院を受診し、危険な状態を脱する治療を受けるように指示しておきます。こうした経過の中で、治療に対する動機づけができ、患者さんが自ら通院治療を希望すれば、食生活日誌などをつけることを課題とし、治療を進めていきます。それでもなお、治療の動機づけができない場合は、患者さんは治りたくない状態と理解し、慢性の治療抵抗性の神経性無食欲症患者に対する治療法を適用していきます。
A『問題意識は芽生えているが、食行動を変えようとしていない段階』
 これは、強制的ではなく患者さん自身も半ば同意して受診しているケースです。自分の食行動異常に対して問題意識は芽生えていますし、何とかしたいと考えてはいますが、しかし前向きに今の食行動異常を変えようとするわけでもない両価的な状態で、自分を変えようという決意に至っていません。この場合でも治療は急がずに、患者さんの病気に対する理解を深めさせて、治療を受けて治そうという動機づけを進めます。方法は@の「病気と認識していない段階」の内容と同じです。治療を継続する決意ができれば、次回の診察の予約をし、治療の手順に沿って治療を行います。 
B『自分の今の状態を変えねばならないと考えている段階』
 親が付き添って来る場合と、患者さん1人で来院し受診する場合があります。この段階というのは、今の状態(不食、大食や嘔吐)を変えようと思っています。しかし、今の状態を止めたら自分がどうなるか確信が持てない、食べだしたら大食して肥満するのではないか、大食を止めたらストレスを晴らす方法が他にない、など自分を変えようとするのを難しくしている要因があって、一歩前に踏み出せないのです。この場合も、神経性無食欲症という病気はどういうものか、資料を見せながら解りやすく説明し、体重やカロリーのことだけで人生が左右されてよいのかと問いかけながら、今の状態を変える意志を強くして、病気に立ち向かうよう決意してもらいます。
C『治療を受けてきたが、うまくいかず転医してきた段階』
 この段階では、治療に対する動機づけはできているが、病気に対する理解、治療目標、医師に対する期待などについて患者さんと医師とのズレがある場合です。したがって、病気に対する共通の理解、治療目標や治療方針などについて納得し同意してもらう必要があります。

◆神経性大食症の患者さんへの接し方

 本人が自ら来院する場合と、親が伴って来る場合があります。治したいという動機づけは出来ているので、その意志を持続して治療が受けられるようにサポートする必要があります。大食症という病気についてさらに解りやすく説明し、大食の嗜癖的側面についても話して、この病気は長期間かかっても必ず治ることを伝えます。そのためには、絶えず患者さんを励まして、病気を治したい、改善したいという意志を持続させるように努めます。途中、患者さんは何回か挫折しそうになるかもしれませんが、大事なことはそこから立ち直ることへの努力や、そのうちに必ず報われる、自己変革ができる、ということを繰り返して説明します。新しい自分を目指し、希望と夢をもつように励ますことが治療者としての大事な役割であると思います。


初診時における重症度の評価と入院・外来治療の決定

 初診時においてまずしなければならないことは、「ただちに入院治療が必要なのか」または「外来治療で可能なのか」を判断することです。そのためには身体状態、摂食行動、精神症状について評価し、それが急性期であれ慢性期であれ、身体的または精神科的に生命の危機状態であるかどうかが、評価の第一要件になります。


 生命的に危険な状態で、入院治療が必要な場合の適応は、次のような場合です。@生命的に危険な状態(脈拍、呼吸、体温、血圧、意識レベルなどのバイタルサインの異常)、A体重減少が著しく、標準体重から-30%以上の痩せで、浮腫などが生じ、歩行も困難、B急性膵炎、急性肝炎、急性腎不全などの重篤な身体合併症などが疑われる場合は、救急病院や内科系の病院に入院する必要があります。また、精神科的な救急入院の適応としては、自殺企図、自傷行為、問題行動、重篤な精神合併症、薬物、アルコール依存などを合併する場合で、いずれも精神病院へ入院する必要があります。ただし、本人が入院に応じなかった場合は、医療保護入院という強制的手続きをとることもあります。


 次に、緊急を要さない場合の入院治療もあります。適応は、身体状態の改善や身体合併症の治療、摂食行動の正常化、社会からの引きこもり、家族との関係の調整、精神症状の改善などがあります。いずれも内科系病院か精神病院に入院し治療をします。そして、目標が達成されれば、速やかに外来治療に切り替えます。入院治療は悪循環を断ち切るためのひとつの契機になりますが、しかし本来の環境の中で治療することを考えると、外来通院による治療が原則となります。


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