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治療方法

 摂食障害の治療は、一般的には非常に難しく、唯一特効的な治療はないということです。それだけに、治療に対しては専門的な知識や技量を必要としますし、寛解や治療にいたるまでに長期間を必要とします。摂食障害の患者さんはさまざまな身体的、精神的な問題を有していて、内科的、精神医学的、心身医学的治療を含めた総合的なアプローチを必要とします。特に、神経性無食欲症の患者さんの場合、そのほとんどの方は病識に乏しく、治療に非協力的なために導入しにくいのが現状です。仮に治療を開始したとしても、途中でドロップアウトしてしまう患者さんもいます。さらに治療を困難にしていることは、患者さん本人の治療だけでは不十分で、家族療法が不可欠であるということです。母親のみならず、家族全体を対象にしたシステムズアプローチなども必要となります。近年、患者さん本人や家族全体を対象にした集団精神療法も行われるようになり、その有効性も確認されています。


 また摂食障害の治療においては、精神療法、行動療法、認知行動療法、身体療法など、さまざまな病因論にもとづく各種治療法が試みられ、それぞれ一定の効果を収めています。ひとつひとつの治療法には、患者さんの病態に応じて、医師の専門とする療法、治療に要する時間や経済性などが考慮され、適宜選択され、組み合わされて行われています。したがって、ある治療法が少数の患者さんには有効であっても、他の患者さんにはそれほど効果のない場合もあり、その逆もあります。この摂食障害の治療の難しさは、この病気の多面性を物語っています。このように、摂食障害の治療においては、心身両面からの総合的なアプローチを試みながら、家族療法を視野にいれて、長期に渡って継続する治療が求められます。どうしても、医師個人の力だけではおのずと限界がありますので、複数の医師による治療の分担や、臨床心理士、ケースワーカーなどのコメディカルスタッフの協力を得たチーム医療がきわめて重要となってきます。


 さて、各種治療法を導入する以前の問題として重要なのは、治療への動機づけをした後、それを維持し強化するプロセスです。患者さん、または患者さんの家族が受診してからの流れを示しますと、


 @初診→A治療への導入→B重症度の判定→C外来治療


が治療の基本です。もちろん、重症度判定の段階で、身体的に重症であれば、必要に応じて短期間小児科や内科で入院治療も必要になりますし、精神的に重症であれば精神科への入院もあります。その後再び外来治療に戻して治療を継続していきます。いずれにしても、治療にあたっては病気について正しく知ってもらうための教育を十分に行う必要があります。そして、治療への動機づけを強化し維持しながら治療をすすめ、少しずつ改善していく過程において患者さんの心の成長を温かく見守っていくことが肝要です。


治療への導入がポイント

 摂食障害の患者さんは、この病気についての知識が非常に乏しいということが問題になります。つまり自分が抱いている強い痩せ願望自体が、実は病気の症状であるという認識がないのです。したがって、この病気の治療導入への最重要ポイントは、痩せたいという症状は病気によるものであるという“病気の外在化”です。このことをしっかり伝え、教育すると同時に、体重増加への動機づけをすることが、病気改善への第一歩ということになります。


 病識が患者さんにないと、自ら進んで受診しようとはしません。親や家族が叱責したり、無理に説得してしぶしぶ受診させても、医師の診断に対して非協力的になったり、無言の抵抗を示したりします。本人にすれば、自分の肥満への恐怖心を無視して無理矢理に受診させ、体重を増加させて現実に苦しむのは自分だけではないか、という警戒心を持っています。しかし、一方においては自分の痩せたくなる気持ちがどうして起こるのか、異常な食行動への不安や気分の不安定さに対しても強い不安感を持っているのも事実です。家族、学校、職場、そして医療機関を含めて自分の気持ちを理解してくれないという、まさに四面楚歌の気持ちになっています。こうした状況下では、まず医師は最初に患者さんとの間の信頼関係を確立することから始めねばなりません。


 信頼関係をつくるポイントとは、まず受診したことを評価してあげ、悩んでいることに共感します。「痩せたい気持ちになるよね」と言って、医師は患者さんの心理に寄り添い、受け入れることが大切です。病気になったことを決して責めないことです。説得して改善しようとしないことです。神経性無食欲症を科学的に説明して、異常な心理や行動は、患者さん本人に責任があるのではなくて、病気がさせている特徴的な症状であることを話します。そして、痩せが改善していけば治る病気であることを情報提供していきます。例えば、あえて異常値の結果がでる検査を行い、その結果を丁寧に説明し、その異常を改善する方法も教えます。このように、患者さんのニーズに応じた医学的な情報を提供しながら、常に医療者は患者さんの味方であり、安心できる相談の場であることを伝えます。いずれにしても、医療者は患者さんに対して丁寧に対応し、自分が大切に扱われていることを気づかせ、自尊心を育てる工夫が大事です。


 これは、神経性大食症においても同じです。過食のエピソードに悩み、そこから抜け出せない自分に無力さを感じています。自己嫌悪や無気力に陥って、「自分は意志が弱くて治らない」と諦めて受診しないケースが多いのです。また受診できても、医師の対応がまずければ治療への導入が図れず、治療を始めても途中で脱落してしまいます。したがって、摂食障害の患者さんの治療には、初診時にいかに治療への動機づけをして、患者さんを治療に導入するかがポイントです。以下、初診時における患者さんおよび家族への対応について述べます。


親・家族が相談にきた場合

 これまで、患者さんは病気を理由に、長期にわたって親や家族に対してかなりの無理を強いてきました。親も患者さんである子どもへの対応についてはかなり苦労し、手を焼き、切羽詰まって医療機関に駆け込んでくる場合が多くなります。悲痛な面持ちで相談に来られた親御さんの苦悩に対しては、十分に耳を傾けることが大切です。そしてここでは、両親の抱えている悩みをいかに軽減するかが医師の対応へのポイントになります。たいていの親は、自分たちの“しつけ”や“育て方”の失敗にすべての原因があると考えて、自責の念に駆られています。子どもを上手く育てられなかった事への罪の意識や後ろめたさを、できる限り取り除いてあげることです。この摂食障害という病気は、ただ単に子育てや教育の失敗だけで発症するものではなく、体質や性格、環境などさまざまな要因が複雑に絡み合って生じていることを伝えます。決して親だけの責任ではないことを説明し、親の罪の意識や後ろめたさを軽くしてあげることによって、親が子どもを客観的に見つめることができ、冷静に対応できるように治療者としては説明すべきだと思います。


本人をいかに受診させるか

 客観的に見て、身体的に緊急を要する場合は別にして、決して患者さん本人の受診を焦らないことです。無理矢理に受診させても、長続きしないことを親に十分説明し、本人自ら進んで受診するまで焦らず待つことが大切です。その間は、親や家族だけに来院していただき、患者さんの状態や経過を報告していただくように依頼します。こうすることによって、患者さんに関する情報を得ることができ、焦らずに時間をかけて対応ができますし、同時に親の不安や悩みの蓄積を防ぐこともできます。親との面談の際は、患者さん(子ども)の“痩せ”のことや “小食”や “大食”などの摂食行動については、あまりしつこく聞いたり指示したりせず、家庭や学校生活、友人関係、また将来はどうしたいのか、じっくり語り合うなかで患者さんの気持ちを理解するように努めます。


 ただ、患者さんの経過を観察するなかで、例えば「うぶ毛が濃くなった」「髪の毛がよく抜ける」「肌荒れがある」「便秘している」「両頬部の腫脹がある」などのような身体症状が現れた場合は、それとなく指摘してあげて、受診をすすめるきっかけにするのも方法です。それから無月経については、本人が気にしている場合は自分から受診することがあり、治療の導入もしやすくなりますが、中にはまったく気にしない人もいますし、むしろ無月経を望んでいる患者さんもいるので注意を要します。また、低体重になってさらに身体症状が進行し、生命の危険を感じるような場合は、子どもの意志に反してでも断固として親は行動を起こし、受診させることが重要となります。


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