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心理療法

 心理療法には、「認知行動療法」と「対人関係療法」の二つがあって、うつ病や社交不安障害を含めた不安障害の治療法として注目されています。社交不安障害における心理療法は、SSRIなどの薬物による治療と匹敵する効果があることがこれまでに報告されています。その二つの療法の概要について、以下説明していきます。

認知行動療法

 認知行動療法(CBT=Cognitive Behavioral Therapy)は、ドナルドマイケンバウムの著作タイトルに初めて使われ、アルバートエリスやアーロンベックにより、初めはうつ病に対する治療法として確立されました。患者の苦痛の原因となっている歪んだ思考や考え方、感じ方(認知)を発見し、それを検証し、修正を行っていくことで治療を行なうものです。認知行動療法は、「認知療法」と「行動療法」の二つの治療法を組み合わせたものです。認知療法とは、考え方に働きかける治療法で、思考のパターンが極端に悲観的であったり否定的であったりする場合に、その修正を図ることができます。一方、行動療法は文字通り行動面に働きかける治療法です。生活には必要ない不合理な行動が習慣になり、それが生活上の支障となっているとき、その習慣を変えることに用いられます。

 最近になって、この認知行動療法を行う患者が非常に増えています。たとえば、うつ病などの気分障害、双極性障害(躁うつ病)、様々な恐怖症、社交不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、薬物(麻薬・覚醒剤・シンナーなど)の乱用やアルコール依存症、強迫性障害、発達障害、摂食障害、パーソナリティー障害など、非常に多岐にわたって治療が行われています。イギリスやアメリカなどの国では、認知行動療法が、うつ病や不安障害治療の第一選択となっています。認知行動療法と薬物療法を組み合わせた治療法では、単体を用いる治療法に比べて非常に高い治療効果が得られることが、科学的に立証されています。

 日本認知療法学会や日本行動療法学会では、毎年おこなわれる大会で多くのワークショップを開き、その普及に努めていますが、現段階ではこの認知行動療法の治療を受けることができる精神科クリニックや心療内科クリニックは非常に少なく、日本ではこの治療法が普及しているとは言えないのが現状です。また、臨床心理士や精神保健福祉士などの養成機関においても、認知行動療法を習得できる機関はごく一部に過ぎず、アメリカやイギリスに比べて大きく遅れており、今後の早急な改善が求められています。

 では、認知行動療法とはどんな治療法なのでしょうか?人間の認知(思考・考え方・感じ方・捉え方)は千差万別であり、同じ出来事でも、人によって認知の仕方(感じ方)は様々です。たとえば、「配偶者が自分よりも先に亡くなった」という出来事が起きた場合、Aさんにとっては絶望的であり生きる希望を失って自分も死んでしまいたい、という認知が起こり、Bさんにおいては配偶者に十分な恩返しができず、今となっては取り返しがつかないと自分を責めるという認知が起こり、Cさんにとっては配偶者と生前においてはたくさんの楽しい思い出があり、十分な恩返しができたので安らかに眠って欲しいという認知が起こり、Dさんにとっては窮屈で息苦しい関係から解放され、清々したという認知が起こります。このように、同じ出来事であっても人によって認知の仕方が様々です。このように、Aさんにとってみれば自分も死んでしまいたいほど辛く悲しいことと感じるのに対し、Cさんは思い残すこともなく亡くなった配偶者に感謝することができ、気持ちの整理ができているといったように、まったく正反対の感じ方(認知)が起きる可能性があるのです。

 また、たとえば「勤めていた会社で、リストラにあって失業した」という出来事が起こった場合でも、Aさんにとっては、自分には能力がなく自分が失敗したためにリストラにあって、もはやどこの会社に再就職しても同じように失敗してリストラにあうのではないかと思い、死んでしまいたいという認知が起こり、Bさんにとっては勤めていた会社は自分にとって最適とは思えず、これを機に再就職して心機一転頑張りたいという認知が起こり、Cさんにとっては、最近過労ぎみでちょうど良い機会なので、かねてより楽しみにしていた海外旅行にいって十分に楽しみたいという認知が起こります。

 また、二人の男性が同時に一人の女性に好意をよせていて、二人はその女性をデートに誘ったところ、女性はどちらも断ったとします。そのとき、二人のうちの一人の男性は「自分には魅力がなく、どんな女性にも好かれない」と考えて落ち込みますが、もう一方の男性はデートに断られたことはがっかりしたが、「たまたま運が悪かっただけで大したことではない」「この世にはたくさんの女性がいる」と気にしていないという認知の違いが起こります。

 以上の事例でわかるように、つまり人間はいろいろな考え方・感じ方・捉え方(認知)の中から、一つの考え方・感じ方・捉え方(認知)を選択しているにすぎないということです。このようにある出来事に対して、それが自分にとって苦痛だったり不都合だったりする認知を、いかに自分にとって幸福になり、好都合となる認知に変えていくか、その作業や方法が認知行動療法と考えればわかりやすいのではないかと思います。人間というのは、心理的苦痛を感じているときは思考の柔軟性を欠き、認知が歪んだものになる傾向があります。つまり情報処理の方法(認知)が歪んでしまうわけです。

 この歪んだ情報処理には、幾つかのパターンがあります。そのパターンとは、「全か無かの思考」「結論の飛躍」「読心術」「レッテル貼り」「感情的理由づけ」などです。全か無かの思考というのは、状況を二者択一的に考えることです。たとえば「有名大学に進学できなければ自分は終わりだ」(大学に進学していない人も幸せに暮らしている人がたくさんいるとは考えられない)や、「会社をリストラになったら死ぬしかない」(リストラになっても、再就職して幸福に暮らしている人がたくさんいるとは考えられない)や、「自分は低所得なので、また自分は容姿に自信がないので結婚などできない」(普通だとこんな考え方はしませんが、そのことで悩んでいる人はこのように考える方が多いです)などです。

 結論の飛躍というのは、何事も性急に判断してしまうことです。たとえば、会社に入社して2〜3日でこの仕事は自分に適性がないと思い込み退職することや、認知行動療法を受けても初回の治療だけでこの治療では自分は治らないと思い込むことや、たった1社の会社面接が不合格になっただけで、自分はどこにも就職できないと決めつけることや、結婚して2〜3カ月も経たないうちに配偶者とはやっていけないと離婚を考えたりすることです。また読心術とは、何の証拠もなく他者の考えを思い描くことです。たとえば、「会社の上司が自分に仕事をたくさん命じるのは、上司に嫌われているからだ」(上司が自分を頼りにしているとは考えられない)と思い込んだり、「近所の人に挨拶したら返事が返ってこなかったので、自分はのけ者にされている」(近所の人は、単に愛想が悪い人なのかもしれないとは考えられない)と思い込んだり、「付き合っている異性の笑顔が少なかったので、もう嫌われてしまった」(異性が体調不良であったとか、たまたまその時機嫌が悪かっただけだ)とは考えられないなどです。

 次にレッテル貼りというのは、自分自身の行動に対してではなく、自分自身にレッテルを貼ってしまうことで、たとえば「大学入試に失敗したということは、自分は落ちこぼれだ」(1回ぐらい大学入試に失敗したからといって、また再度挑戦すればよいとは考えられない)とレッテルを貼ってしまうことや、また「1回のお見合いで失敗したということは、自分は負け組だ」(お見合いというのは通常1回ではなかなか決まらないというふうには思えない)とレッテルを貼ってしまうことや、また「自分の給料が安いということは、自分は落伍者だ」(給料だけで人間の評価が決まるわけではないとは思えない)とレッテルを貼ってしまうことです。

 最後に感情的理由づけというのは、そのように感じることを事実だと決めつけてしまうことです。たとえば「私は今の仕事が向いていないと感じる、だからそれは事実に違いない」(他人からの評価を考慮に入れない)と決めつけたり、「自分はあの人に嫌われていると感じる、だからそれは事実に違いない」(あの人に確認したわけでもないのに)と決めつけたり、「自分は落伍者だと感じる、だからそれは事実に違いない」(他人からの客観的な評価を考慮にいれない)と決めつけたりすることです。

 以上述べてきたように、社交不安障害においては、基本的に認知が偏っているために不安が生み出されていますので、それを客観的に見つめて、いろいろな角度から認知を検証していく治療法としての認知療法があるのです。さらに不安障害は、「ある状況では不安になるのが当然」ということに身体が慣れてしまっているため、それを徐々に変化させていくのが行動療法的アプローチです。たとえば、高所恐怖症の人であれば、少しずつ高いところに慣れていって、段階的に恐怖の対象に慣れていくという段階的暴露法があります。このほか、社交不安障害に対する認知行動療法で、しばしば用いられる社会技能訓練(SST=Social Skills Training)という技法がありますが、これは実際に対人コミュニケーションの仕方をトレーニングしていくものです。

 いずれにしても、認知行動療法は多くの臨床試験で効果が示されており、薬物療法と比べると再発率が低いというデータがあります。もちろん、万能の治療方法というわけではありません。




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