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治療の意味と回復への道筋

 さて、社交不安障害は「治る病気」なのだろうか、という素朴な疑問をもたれる方も多いと思います。これまで見てきたように、ある日突然パッと治るような簡単な病気ではないことは解っていますが、しかし社交不安障害は治療不可能の病気では決してありません。それにはこの病気の本質を理解し、不安症状による複数の悪循環を断ち切るための療法を有効に活用していくことでしょう。では、複数の悪循環とはどういうものかみていきます。一つは、人とのやりとりの不安が実際の場面において不安を増幅し、その体験がますます人とのやりとりを不安にさせることで悪循環となります。二つ目は、社交不安障害の人は、不安のために人とうまくやり取りが出来ない、うまく振る舞えない自分を責めています。そして自責的になることでストレスが溜まると、不安症状がさらにひどくなりまた自分を責める、という悪循環です。三つ目は、社交不安障害の人は、自分は無能で出来損ないで人から好かれないだろうと思っています。そのため、自分の悩みなどを人に打ち明けようとしないため、人と親しくなれず、孤独感に陥り、だから自分は人から好かれないと思う、という悪循環になります。このように複数の悪循環が、この病気の回復を難しくしている一番の要因です。

 では、どのようにしたらこの悪循環を断ち切ることができるのでしょうか。ポイントは、悪循環となっている原因です。それは、自分自身のコントロールの喪失にあります。様々な状況においてコントロールできないことが、不安や恐怖につながっているのです。つまり、社交不安障害の治療の目的の一つは、コントロールを取り戻すことにあります。コントロールできれば、不安は大きく軽減されます。コントロールできるという感覚が持てるようになることによって、それが「自信」となり「安心」につながるのです。コントロールを取り戻すためには、自分に何が起こっているのかを正確に知るとともに、実現可能な目標を立てることから始めます。その目標は、症状をなくすということに目標を置くのではなく、自分の力を感じることに目標を置いて取り組めば、結果的に症状の改善につながっていくものと思います。

不安に対しての回避と忍耐

 不安という感情は、普通の人でも最初は緊張して不安になっても、その状況を繰り返して経験すれば慣れてきて、やがて不安は少なくなってきます。ところが、社交不安障害の人は繰り返すことによって不安が減じることはなく、むしろ状況を繰り返すことによってますます不安が高まっていくのが、この病気の特徴です。また不安は、その状況に直面した時だけに感じるものではなく、実際の状況が起こる以前から感じていることが多いです。このようにあらかじめ感じる不安を「予期不安」といいますが、この予期不安が強くなると「自分にはきっとうまくできない」という思い込みが強くなります。

 では、こうした社交不安障害の人の不安と、普通の人が感じる不安の違いはどこにあるのかというと、一つは、不安がどれほどその人の「生活を妨げているか」ということと、もう一つは、不安がその人にとってどれほど強い「苦痛となっているのか」という点です。いうまでもなく、普通の人にはほとんど生活の妨げになっていないのに対し、社交不安障害の人にとっては生活をするうえで大きな支障となっています。また苦痛においても、普通の人にとっては大した苦痛とならないのが、社交不安障害の人にとっては耐え難い苦痛となっています。つまり不安の質や内容がまったく違うのです。

 そこで、社交不安障害の人の場合、、当然この辛い苦しい不安を回避しようとします。その状況を避ければ問題になるような事態であっても避けたりすることがあり、さらに回避が強すぎると実際の社会生活が送れなくなること(社会的ひきこもり)も少なくありません。また、どうしても避けられない状況におかれると、耐え忍ぶことになりますが、その場合は強い恐怖と「自分はダメだ、無能な人間だ」と感じ続け、その不安と恐怖、自己無価値観が繰り返されることになるのです。

不安反応の本質と現れ方

 社交不安障害の人は、恐怖する場面に直面すると「不安反応」と呼ばれる反応を起こします。それは主観的な不安で、「他人にじろじろ見られるのではないか」「観察されたりさらしものになったりするのではないか」「恥をかいたり侮辱されたりするのではないか」といったものです。つまり、人前で自分は変なことを言ったり、あがってしまってうまく話せなくなったりして失敗をするのではないかと想像して不安になるのです。この不安の本質というのは「人からのネガティブな評価を恐れる」ということにあります。他人から冷たい目線で見られたり、馬鹿にされたり、侮辱されたりすることをはっきりと自覚していることもあれば、単に漠然とした不安である場合もあります。こうしたことから、社交不安障害の人は「自意識過剰」などと言われることがありますが、もちろんこの自意識はネガティブな面での自意識過剰なのです。

 この主観的な不安は、また身体症状としても現れます。一般に見られる症状としては、動悸、手足や声の震え、発汗、赤面、筋肉の緊張、胃腸の不快感、下痢、ほてり、手足の冷感など、アドレナリンが分泌されて生じる交感神経刺激症状です。これは不安という心の作用によって、視床下部による自律神経の調整がバランスを崩して起こるもので、身体症状そのものに病的な疾患があるわけではありません。不安な状況が自分にとって危険であると認識したときに、原始人の時代から自然に生じる交感神経刺激症状であり、自分自身ではその恐怖をうまくコントロールできません。この身体症状の著しい例が、あのパニック発作です。動悸や息苦しさが起こり、このまま死ぬのではないか、頭がおかしくなるのではないかと思う発作が起こります。社交不安障害の不安によって現れる身体症状も、パニック発作と同じで、目に見える症状です。そして、基本的には自分で症状をコントロールできないために、この不安反応が非常に気になりますし、気にすればするほど不安が強まり、不安反応もひどくなり、悪循環となります。問題なのは、不安反応が過剰になるということです。解りやすくいえば、危険に対してセンサーが感知し、ブザーが鳴るのは正常ですが、危険でもないのにセンサーが危険を感知してブザーを鳴らしてしまっているということです。社交不安障害は、センサー(大脳辺縁系の扁桃体)そのものの病気なのです。

対人関係からみた社交不安障害

 これまで「社交不安障害が対人関係に影響を与える」ということについてはいろいろな角度から見てきましたが、その反対である「対人関係が社交不安障害にどう影響を与えるか」ということについては、十分な検討がなされてこなかったように思います。この考え方は、治療法である対人関係療法のうえから重要な視点と考えられます。もとより、社交不安障害の原因は詳細にはわかっていません。遺伝的な要因も多少の関与は認められていますし、性格も関係しています。また生育環境や人間関係も要因の一つになっています。これらのいろいろなファクターが背景にあって、社交不安障害が発症しているものと考えられます。

 そこで、社交不安障害を対人関係という点からみると、社交不安障害の人に多く見られるのは、批判的な人が身近なところにいた例です。なかには、身体的また性的虐待を受けていたという人もいます。この批判的な人というのは、親であったり、配偶者や上司や教師であったりします。つまり人とのやり取りするをする対人関係のなかで、結果的にネガティブな評価を受けることが多かったこ場合、危険、心配、恐怖、不安と感じる頻度が多くなり、社交不安障害の症状となっていくのです。またそれが直接的な批判でなくても、「○○したら恥をかくかもしれない」とか「○○したら、人に○○と思われるかもしれない」などといったように、世間体を気にする言葉を日常的に聞かされたりすると、それは社交不安障害の症状と同質なものとなります。そして、批判的な人に言い返したりすると、逆に怒られたり意地悪されたりして「言っても無駄だ」と無力感を抱き、ネガティブな評価を受けたことと同じになります。対象が、世間という得体の知れないもので、それに対しおびえて、恐れている自分の人間的な価値を恥じているのです。

 社交不安障害の人は、生まれながらにして「自分はどこかおかしい」と思っていることが多いと言われます。だからといって、生まれながらにしてこの病気を発症しているわけではありませんし、また生まれながらの性格や素質みたいなものが、そのまま病気になるわけではありません。やはり、社交不安障害は遺伝と環境の相互作用のなかで発症するものですから、その人が育った環境のなかで経験し体験し観察した対人関係が、病気の発症に大きくかかわっていることは確かです。人から批判されたからといって、その批判がすべて正しいというものではないので、自分で判断して受け入れるか受け入れないか判断すればよいのです。むしろネガティブな評価をされたら、相手はその程度の人間だと考え、これは相手の問題であると考えれば、自分をコントロールする力がついてくると思います。そのためには、治療の場で繰り返し実践することが大切なことです。

子供の社交不安障害

 大人と子供では、社交不安障害の症状のでかたに違いがあります。大人の場合、自分の恐怖の不合理性を認識していますが、子供においては不合理性の認識はあまりありません。子供は、他人との関わりを避けるというのではなく、他の形で表現します。例えば、泣いたり、かんしゃくを起こしたり、固まってしまったり、親しい人にしがみついたり、また全くしゃべらないといった形をとることもあります。また、大人は自分が社交不安障害であることに気づいていて、それを避けることもわかっていますが、子供の場合はそれがわからず混乱していることがあります。そして、子供同士の遊びの輪に入らず、親しい大人の側にいようとします。そこで、子供が社交不安障害であるかどうかを診断する場合は、親しい人と親しくできるかどうか、子供同士の場面でも社交不安障害が見られるかどうかを確認します。ある程度大きくなれば、できていたことができなくなったことでわかりますが、幼少児の発症の場合は、その年頃に出来ることができないと気づいていくしかありません。いずれにしても専門医の判断を求めることが必要です。




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