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疾患の詳細

不安障害は、単なる不安が苦しみになる

 社交不安障害は「不安障害」の一種です。このほか不安障害として分類される病気には、「パニック障害」「強迫性障害」「全般性不安障害」「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」「新型うつ病」「社交不安障害」などがあります。いずれも「不安」という症状が共通しています。不安を感じない人はいないように、不安は人間に生まれながらに備わった生きるうえで大切な感情の一つで、安全確保のための契機となっています。もし、人間が不安を感じなかったら、常に危険にさらされて生命すら危うくなります。その意味で、不安という感情は一種の自己防衛能力といえます。

 では不安障害のときに感じる不安どういう不安かというと、「不安の程度が過度に強くなった場合」「不安に対して不安を抱くという悪循環が成立した場合」という2つの特徴をもっています。一つ目の不安の程度ですが、人間であれば誰でも理解できる範囲の不安であっても、程度が強すぎると苦しくなることがあります。たとえば、「手が汚れているのではないか」と思って手を洗う行為は常識的な範囲ですが、洗った直後から雑菌にさらされ汚れていると思えば、繰り返して手を洗い続けることになり、しょっちゅう手を洗ってばかりいれば、洗う時間や水の量、石けんの量など、さらには仕事や学業などいろいろな面において生活に支障がでてきます。いわゆる「強迫性障害」です。

 また「パニック障害」の人であれば、渋滞した道路を運転しながらふと「ここで心臓発作が起こったらどうしよう」という強迫観念にとりつかれ怖くなります。普通の人でも「確かにそんなことが起こったら困りますよね」と理解はしますが、それ以上考えず普段通り運転しています。しかし、不安の程度が過ぎると、強迫観念のとりつかれた状態になって、日常生活に支障がでてきます。つまり「いくら何でも、そこまで気にしていたら生活が出来なくなってしまう」という不安に襲われ続けるところに、不安障害の特徴があるのです。本来自分を守るために備わった不安という感情が強くなり過ぎるために、かえって自分を苦しめてしまうのです。

 次に二つ目の特徴は、不安が不安を抱くという二重構造の不安です。

これもパニック障害の人に典型的な例をみることができます。たとえば、身動きができない満員電車の中で具合が悪くなり、「具合が悪いのに電車から降りることができない。どうしよう」という不安が強くなって、最初のパニック発作が起きたとします。発作を起こすと、呼吸が苦しくなり、心臓がドキドキして自分は本当に死んでしまうのではないか、と思うようになります。こうして不安が強い状態におかれると、今度はパニック発作自体に不安を抱くようになり、「またパニック発作が起きたらどうしよう」というように、不安の対象が移っていきます。つまり、満員電車の中での不安が、パニック発作自体への不安に変わっていき、それが次の不安につながり、不安に対して不安を抱くという悪循環に陥ります。こうなると、不安に対して客観的な見方がだんだんできなくなり、何だかわからないけど不安である状態になって、安全確保のための不安が正常に機能しなくなり、不安そのものが苦しみになってしまうのです。

社交不安障害かどうかをチェックする

 アメリカ保健研究所(NIH)が発行している資料には、社交不安障害を見つけるためのチェックリストが載っています。これに該当するものがあれば、社交不安障害の疑いがあるかもしれないというものです。その7項目は次のようなものです。

  • @ 人前で、何かを言ったり行なったりすることによって、自分は恥ずかし思いをするのではないかという強い恐怖感がある。
  • A 失敗したり、他人から見られたり、また評価を下されることについて、常に怖い思いがする。
  • B 恥ずかしい思いをするのではないかという恐怖のために、人と話したりすることができないし、やりたいこともできない。
  • C 人と会わなければならないとき、何日間も何週間も悩む。
  • D 知らない人に会う前やまた一緒にいるとき、顔が赤くなったり、汗をひどくかいたり、震えたり、吐きそうになったりする。
  • E 学校行事や、人前で話すような状況など、人とかかわる場を避けることが多い。
  • F 以上のような恐怖を払いのけようとして、飲酒することが多い。

 これらの項目については、不安の種類や時間の長短を問わなければ、誰でも一つぐらいは該当することがあるかもしれませんが、だからといってそれがただちに社交不安障害だということにはなりません。病気としての不安は、「質」ではなく「程度」です。つまり、そのような不安が苦しみとなって、日常のほとんどの領域におよび、毎日のように続く状態であれば、社交不安障害の疑いが考えられるのです。社交不安障害の場合、不安の程度が、通常の不安とはまったく異なります。そして何よりも、不安を感じている本人(大人の場合)が、自分が感じている不安が決して合理的なものではないということを自覚しています。だからこそ、つらいのです。そして、その不合理の不安にとらわれて、社会生活に支障をきたしている自分自身が情けなく思うことも、社交不安障害の苦しみの重要な要素です。不安に苦しむ自分が「弱い」「自意識過剰」「どこかおかしい」と感じるようであれば、不安そのものが病気ということになるのです。

 社交不安障害の診断は、アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-W-TR)に基づいて一般に行われます。診断基準について詳しくは、『診断』の章に掲載してありますので、それを見ていただくとして、ここでは社交不安障害の診断基準の重要な部分について、一般向けに分かりやすく5項目にまとめてみました。

  • @ 知らない人から注目される状況や、他人が見ている前で何か行為をするとき、また知らない人と交流をするとき、また他人の視線を浴びながら何か行うといった場面で、常に著しく持続的な恐怖がある。自分が恥をかかされたり、恥ずかしい思いをしたり、おかしな行動や不安な姿を見せたりすることを恐れる。
  • A @のような恐怖感を抱く状況にさらされると、ほとんど必ず不安反応が生じる。
  • B 自分が抱いている恐怖や不安が、普通の人よりも過剰であり不合理であることを認識している。
  • C @のような恐怖感を抱く状況を避けようと行動し、また強い不安や苦痛を感じながら耐え忍んでいる。
  • D @のような恐怖感を抱く状況の回避や苦痛のために、日常生活や人間関係が障害されているか、著しい苦痛を感じている。

 上記@の内容が、社交不安障害の診断の基準となっています。その核心となるのが「恥ずかしい思いをすること」と「自分がおかしな人間であることに、他人が気づくのではないか」といことです。患者の多くは、本当の自分を他人が知ったら、きっと自分のことが嫌いになるだろうと思っています。他人が気づくのは、自分の外面を通してですので、「自分が、相手にどう見えるか」が気になり、恐怖になります。人前に出たとき、自分の身体が震えたり、声が震えたりすることに他人が気づくのではないかと恐れ、人前で話すことを避けたりします。また人前で字を書いたり、飲食したりするのを避けたりします。それは、手が震えたり、ぎこちない食べ方をしたりすることを見破られ、自分が変な人間であることがわかってしまうのではないかと恐れるのです。

 それから、もう一つ診断のポイントとしては、Dにある「日常生活や人間関係が障害されている」ということです。これまでの正常な生活が、不安や恐怖のために制限されているということです。こうして、@からDまでの項目がすべて当てはまり、またそれらの症状が薬物や内科的な原因によるものでなければ、社交不安障害である可能性がかなり高いと言えます。もちろん、正しく社交不安障害かどうかを判断するには、専門医を受診して面接を受け、診断してもらうことが必要です。

 社交不安障害の場合、どこからどこまでの症状が社交不安障害であるか否かについては、専門家の間でも議論の分かれるところです。統一見解が出せないところに、社交不安障害という病気の特徴がありますが、診断を難しくしている要因は患者本人の主観に基づいて診断する部分が大きいからです。患者の主観に基づいて診断すれば、かなり多くの人が社交不安障害の患者になることにもなります。どこからどこまで病気として判断するかによって、有病率の数字にもかなりの差がでてきます。病気の判断の範囲を広げれば、患者の数が増えることになり、安易に病人扱いすることによって多くの人に薬を飲ませることには、決して良いことではありません。

 しかし病人扱いしないですむはずの人までが病人扱いされているという事実以上に、病気であるのに病気として扱われていない人の方が圧倒的に多いことの方が、実は問題なのではないかと考えます。それは、この社交不安障害という病気が、まだ十分に知られていないということもありますが、それ以上に「自分は病気だとは思わない」という患者自身の感じ方や受け止め方が、社交不安障害を正しく診断するうえで大きなネックになっていることも事実です。いうまでもなく、診断は正確に行わなければならないのは、社交不安障害においても同じです。少しでも気になる症状を感じたら、早めに専門医の診断を受けることが大事なことといえます。




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