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2つの人格障害と社交不安障害との関係

 DSM-W-TRの診断基準では、2つの人格障害と社交不安障害の関連性について触れています。一つは「統合失調質人格障害」、もう一つは「回避性人格障害」です。この2つの人格障害と社交不安障害の区別を認識しておくためにも、2つの人格障害の診断基準を挙げておきます。

統合失調質人格障害の診断基準

A 社会的関係からの遊離や、対人関係状況で感情表現の範囲が限定されるなどの広範な様式である。成人期早期に始まり、以下に述べる種々の状況で明らかになる。以下のうち4つ、またはそれ以上によって示される。

  • @ 家族の一員であることを含めて、親密な関係を持ちたいと思わない。または、それを楽しく感じない。
  • A ほとんどいつも孤立した行動を選択する。
  • B 他人と性体験を持つことに対する興味が、もしあったとしても、少ししかない。
  • C 喜びを感じられるような活動が、もしあったとしても、少ししかない。
  • D 第一度親族(親または子)以外には、親しい友人または信頼できる人がいない。
  • E 他人の賞賛や批判に対して無関心に見える。
  • F 情緒的な冷たさ、よそよそしさ、また平板な感情。

B 統合失調症、気分障害、精神疾患性の特徴を伴うものや、他の精神疾患性障害または広汎性発達障害の経過中にのみ起こるものではなく、一般身体疾患の直接的な生理学的作用によるものでもない。

注:統合失調症の発症前に基準が満たされている場合には、“病前”と付け加える。


 これで分かるように、統合失調質人格障害の人は社会から撤退しているのですが、それは生活全般にわたっていて、限定された状況だけではありません。また、統合失調質人格障害の人は、あらゆる対人関係において、他人との接触にまったく無関心であるのに対し、社交不安障害の人は他者との関係性に関して敏感すぎる、という点が正反対の特徴といえます。

 もう一つの人格障害である「回避性人格障害」ですが、これは社交不安障害の全般性タイプとして、回避性人格障害の追加診断も考慮すべきであると記載されています。これは、回避性人格障害と社交不安障害の区別が難しいということを意味しているだけでなく、治療においては並列して行ってもかまわないことを示唆しています。普通、人格障害というと、不安定な対人関係が長期にわたって続いているような人達をいい、普通に生きられない人達の場合です。しかし、社交不安障害の人は、対人関係から撤退することはあっても、不安定な人間関係をつくることはあまりしないことを考えると、この二つの疾患は別のものとして考える必要があります。。ただし、重度の社交不安障害の人においては、社会から完全に撤退するために、回避性人格障害との鑑別が必要です。しかし、この鑑別が困難であることや、追加診断もしなければならないのです。ただ、回避性人格障害にかかる人の割合は、社交不安障害の人の1割程度ですから、回避性人格障害の診断基準を満たすような人は、ほとんどが社交不安障害の診断基準も満たしていると考えられます。

 したがって、二つの疾患にかかっていることを追加診断で必要以上に求める必要はなく、重症の社交不安障害であれば、ほとんどは回避性人格障害の診断基準を満たしていますし、治療法にも大きな違いはないのです。ここで、回避性人格障害の診断基準を示しておきます。

回避性人格障害の診断基準

 社会的制止や不適切感、および否定的評価に対して過敏に反応してしまう広範な様式である。成人期早期までに始まり、以下に述べる様々の状況で明らかになる。以下のうち、4つまたはそれ以上によって示される。

  • @ 批判、否認、または拒絶されることに対する恐怖のために、対人接触のある職業的活動を避ける。
  • A 好かれていると確信できなければ、人と関係を持ちたいと思わない。
  • B 恥をかかされると、またはバカにされることを恐れるために、親密な関係のなかでも遠慮を示す。
  • C 社会的な状況では、批判されること、または拒絶されることに心がとらわれている。
  • D 不適切感を恐れるために、新しい対人関係状況で制止が起こる。
  • E 自分は社会的に不適切である、人間として長所がない、または他の人より劣っていると思っている。
  • F 恥ずかしことになるかもしれないという理由で、個人的な危険をおかすこと、または新しい活動に取りかかることに、異常なほど引っ込み思案である。

社交不安障害の診断基準(ICD-10)

 WHO編の『精神および行動の障害』(ICD-10)による診断ガイドラインです。

  • A. 比較的小さなグループで、他人にじろじろ見られることが恐怖の中心であり、ふつう社会的場面を避ける。
  • B. 通常、自己評価が低く批判を恐れる。
  • C. パニック発作にいたり得る、赤面、震え、嘔気、尿意頻迫が訴えられることがある。
  • D. 恐怖状況を避けるか、強い不安をもって耐える。忌避がしばしば著明、ほぼ完全な社会的ひきこもりがみられることがある。
  • E. 不安は特別な社会的状況にしばしばみられるか、それに限られる恐怖をもつ状況を可能なら避ける。
  • F. 社交不安障害と広場恐怖の区別が困難な場合は、広場恐怖が優先される。パニック障害は、恐怖症のない場合のみ診断される。
  • ※ 社交不安障害は、限局型(公衆の場面での食事、異性とのつきあい、人前でのスピーチなどに限られる場合)と、びまん型(ほとんどすべての社会的状況が関与する場合)に分けられる。

重症度の評価について

 社交不安障害の場合、客観的に「これは重い」「これは軽い」症状である、といった特定はできません。重いか軽いかは、その症状が患者自身にとって、どれだけ社会生活や日常生活に支障を与えているかによって決まるからです。さらに治療法においても、その患者が置かれている環境によって大きく左右されますので、どのような治療法を選択すればよいのかも変わってきます。とくに、症状の重い軽いは、その患者がストレスを感じる環境(例えば新しい職場、新しいクラスなど)がいつ生じたのかによって左右されますし、また現在置かれている環境によっても変化します。つまり、時の経過とともに症状の程度は刻々変化しているということです。

 一般に、精神科のクリニックを受診するきっかけでもっとも多いのは「人前で緊張して話せなくなった」というケースです。サラリーマンであれば、営業先でお客さんと話すのに思うように言葉が出てこなかった、学生であれば人前で発表するのに自分を見失って何も話せなくなった、子育て中の母親であれば幼稚園の集まりで意見を求められたが頭の中が真っ白になった、というものです。まだまだ、精神科や心療内科を受診することに抵抗感があるなかで、「人前で自分が出せない」と苦しみ、藁にもすがりたい気持ちで受診する人が多いのです。「人前で緊張する」「人前で話せない」という切実な訴えが、患者にとっては寝ても覚めても心の負担となっています。

 一方、軽い症状といっても、その症状がどれだけ患者の生活に支障を与えているかにかかっています。例えば、結婚式や葬式の名簿に記帳するとき手が震える、会話をするとき顔が赤くなる、など普通の人からみれば些細なことかもしれませんが、そのことで結婚式や葬式に出席できなかったりすれば、そのこと自体が社交不安障害なのです。ただ、このような症状は、結婚式や葬式やデート以外では起こらない、限定的なものです。ある特殊な状況以外は苦痛を感じない、つまり生活全般にわたって支障をきたしていないという意味では軽症ともいえます。




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