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DSM-W-TRとICD-10の診断基準

 社交不安障害の診断には、世界の精神科医が使っているアメリカの精神医学会による『精神疾患の分類と診断の手引き』(DSM-W-TR)の中の「社交不安障害の診断基準」か、またはWHO編の『精神および行動の障害』(ICD-10)による診断ガイドラインが使われます。DSM-W-TRは、社会生活面に支障が現れていることを条件にしている点で、ICD-10より診断基準は厳密になっているのが特徴です。DSM-W-TRでは、社会恐怖(社交不安障害)と表記されていますが、社会恐怖というと別の社会不安を想起させるイメージがあるために、日本では一般的に社交不安障害SAD(Social Anxiety Disorder)、または社会不安障害(あがり症・対人恐怖)という病名が一般的に使われています。DSM-W-TRの診断基準は、一般の人には少し解りにくい文章ですが、まず全文をそのまま掲載します。

社交不安障害の診断基準(DSM-W-TR)

  • A. よく知らない人達の前で、他人の注視を浴びるかもしれない社会的状況、または行為をするという状況の1つまたはそれ以上に対する顕著で持続的な恐怖。その人は、自分が恥をかかされたり、恥ずかしい思いをしたりするような形で行動(または不安症状を呈したり)することを恐れる。  注:子供の場合は、よく知っている人とは年齢相応の社会関係をもつ能力があるという証拠が存在し、その不安が、大人との交流だけでなく、同時代の子供との間でも起こるものでなければならない。
  • B. 恐怖している社会的状況への暴露によって、ほとんど必ず不安反応が誘発され、それは状況依存性、または状況誘発性のパニック発作の形をとることがある。
    注:子供の場合は、泣く、かんしゃくを起こす、立ちすくむ、またはよく知らない人と交流する状況から遠ざかるという形で、恐怖が表現されることがある。
  • C. その人は、恐怖が過剰であること、または不合理であることを認識している。
    注:子供の場合、こうした特徴のない場合もある。
  • D. 恐怖している社会的状況、または行為をする状況は回避されているか、またはそうでなければ、強い不安または苦痛を感じながら耐え忍んでいる。
  • E. 恐怖している社会的状況、または行為をする状況の回避、不安を伴う予期、または苦痛のために、その人の正常な毎日の生活習慣、職業上の(学業上の)機能、または社会活動または他者との関係が障害されており、またはその恐怖症があるために著しい苦痛を感じている。
  • F. 18歳未満の人の場合、持続期間は少なくとも6カ月である。
  • G. その恐怖または回避は、物質(例:乱用薬物、投薬)または一般身体疾患の直接的な生理学的作用によるものではなく、他の精神疾患(例:広場恐怖を伴う、または伴わないパニック障害、分離不安障害、身体醜形障害、広汎性発達障害、またはスキゾイドパーソナリティ障害)ではうまく説明されない。
  • H. 一般身体疾患または他の精神疾患が存在している場合、基準Aの恐怖はそれに関連がない。例えば、恐怖は、吃音、パーキンソン病の振戦、または神経性無食欲症または神経性大食症の異常な食行動を示すことへの恐怖でもない。
  • ▼該当すれば特定せよ
     全般性 恐怖がほとんどの社会的状況に関連している場合(例:会話を始めたり続けたりすること、小さいグループに参加すること、デートすること、目上の人に話をすること、パーティーに参加すること)
     注:回避性パーソナリティ障害の追加診断も考慮すること。

 以上が、DSM-W-TRに掲載されている社交不安障害の診断基準ですが、これを読んだだけでは、なかなか一般の人には理解されにくい表現です。そこで、解りやすい言葉で表現した内容を次にまとめてみました。

  • A. 他人から注目される状況や、他人が見ている場所で何かをするとき、また知らない人と交流をするときなど、他人の視線を浴びながら何か行為するといった場面で、常に著しい恐怖感を抱く。面目を失ったり、恥をかいたり、おかしな行動や不安な姿を見せたりして、恥ずかしい思いをするのではないかと恐れる。
  • B. 恐怖感を抱くような状況にさらされると、ほとんどいつも不安を生じる。その不安は、状況に深く結びついていて、「パニック発作」を誘発することがある。
  • C. 自分自身が抱いている恐怖感や不安が、普通の人が感じているものよりも過剰であり、不合理であることを認識している。つまり、自分が思っているほど恐れなくてもよいと分かっているのに、そうなってしまう。
  • D. 恐怖感を抱く状況にならないように、それを避けようと行動してしまう。または、強い不安や苦痛を感じながらも耐え忍んでいる。
  • E. これらの恐れている社交不安を避け、強い不安に苦しめられることで、日常生活や社会生活、人間関係に著しい支障をきたしている。
  • F. 18歳未満の人は、このような状況が、少なくとも6カ月以上続いている。
  • G. この恐怖を回避する行為は、薬物や内科疾患を原因とするものでもなければ、その他の精神疾患の症状でもない。
  • H. 内科的疾患やほかの精神障害がある場合、その疾患と障害の症状は診断基準Aの恐怖とは関係しない。

 診断基準のBに「パニック発作の形をとることがある」とあります。このパニック障害に対しては、しばしば誤解されることがありますので、もう一度ここで診断基準に添った判断を整理しておきたいと思います。パニック発作は、一般的に「パニック状態になる」とか「パニックに陥る」といわれるものではありません。これは一過性の混乱状態を指すものであって、パニック発作とは異なります。パニック障害は、後で示すパニック発作の診断基準によって正しく判定されますが、しばしば誤解されるのが、過去にパニック発作を一度、または数回起こしただけで、その人をパニック障害がある人と判断してしまうケースがありますが、それだけでパニック障害がある人とは言えません。パニック障害は、パニック発作を繰り返し起こし、それによって日常生活に支障をきたす場合において、はじめてパニック障害と呼ばれます。このことは、精神科医の間では共通の認識となっていますが、精神科医以外の医師や、一般の人たちの間でしばしば誤解されていることです。パニック障害のメカニズムについては、近年、かなり解明されてきていますが、パニック障害の場合、serotonin関連疾患であり、適切な治療を早期に受けなければ、パニック性不安うつ病と呼ばれる非定型うつ病の病態を持ったうつ病を発症しますので、早期の段階から積極的な治療を要します。

 ここで、社交不安障害の診断基準にあるパニック発作は、アメリカ精神医学会のDSM-Wに示されている診断基準によって判定されます。確認のために以下にパニック発作の診断基準をあげておきます。

パニック発作の診断基準

 強い恐怖または不快を感じ、はっきりと他と区別できる期間で、そのとき以下の症状のうち4つ、またはそれ以上が突然に発現し、10分以内にその頂点に達する場合をパニック発作と診断します。

  • @ 動悸、心悸亢進、または心拍数の増加
  • A 発汗
  • B 身震いまたは震え、手足のしびれ
  • C 息切れ感または息苦しさ
  • D 窒息感
  • E 胸痛または胸部の不快感
  • F 嘔気または腹部の不快感
  • G めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
  • H 現実感消失(現実でない感じ)、または離人症状(自分自身から離れている感じ)
  • I コントロールを失うことに対する、または気が狂うことに対する恐怖
  • J 死ぬことに対する恐怖
  • K 異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)
  • L 冷感または熱感

 診断基準では4つ以上となっていますが、多くのパニック発作では、ほとんどすべての項目を満たしています。また、診断基準ぎりぎりの症状で判断に迷うような場合は、パニック発作でないことがほとんどです。このパニック障害の他に、社交不安障害と区別すべき他の精神疾患として、分離不安障害(小さい子供に認められる精神障害で、親から離れるときに、本人も意識しないような強い不安が出現するもの)、身体醜形障害(自分の体の全部、あるいは一部が醜いという妄想的な確信を抱き、そのことによって日常あるいは社会生活上に支障を来しているもの)、広汎性発達障害(自閉症やアスペルガー症候群)、統合失調質人格障害などがあります。とくに、社交不安障害と統合失調質人格障害との区別が重要になりますので、ここで統合失調質人格障害の診断基準を確認しておきます。




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