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診断基準

 1980年の「精神障害の分類と診断の手引き」第3版(DSM-V)において、社交不安障害の診断基準が示されて以降、欧米では様々な研究が進められてきました。以前はまれな病態であるという認識であったため、認知もされず治療もされなかった病気でしたが、その後大規模な疫学調査が行われ、生涯有病率も高いことがわかり、さらに社会生活においても障害が大きいことが明らかになってきました。治療についても、薬物療法をはじめ認知行動療法や精神療法などの研究も進み、高い有効性があることもわかってきました。また、臨床症状評価尺度の研究や開発も行なわれてきました。

DSM-VおよびDSM-Wによる診断

 DSM-Vには、「他人の注視を浴びるかもしれない社会的状況または行為をする状況に対して、顕著で持続的な恐怖を抱き、自分が恥をかいたり、恥ずかしい思いをするように行動すること(または不安症状を露呈したりすること)を恐れる状態である」と記しています。つまり、社交不安障害の患者においては、他人と話をしたり他人の前で行動したりするとき、自分は恥ずかしい思いをするのではないかと非常に心配になって、毎日の生活や仕事に支障をきたすようになります。また、自分が恐れている社会状況や対人関係が起こる可能性があると、強い不安感に襲われ、今度はそれを避けようとします。それが避けられない状況になると、非常に強い苦痛を感じます。

 社交不安障害の人が不安や恐怖を感じる状況、また回避の対象となる状況として多いのは、「人前で話したり書いたりする」「公共の場所で食べたり飲んだりすること」「目上の人や、あまりよく知らない人との面会」などです。このような状況で、声が震えたり、手が震えたり、顔がひきつったりして恥をかくのではないか、と考えて非常に不安になります。ですから、人前で話したり食べたり書いたりすることを避けるようになります。試験や面接などで評価されることも苦手です。このように日常的にいつも不安や恐怖を体験していると、生理的な反応も現れやすくなり、動悸、発汗、振戦、紅潮、声の震え、胃腸の不快、下痢などの身体的症状が発現することがあります。重症化していくと、症状がパニック発作の基準を満たすこともあります。社交不安障害は2つの種類に分けられ、一つは非全般性社交不安障害、もう一つは全般性社交不安障害です。非全般性というのは、特定の状況(例えば、人前で話をする場合など)において、それが1つか2つ程度の状況に限って症状を訴えるものです。これに対し、全般性は文字通りほとんどの社会的状況の全般において症状を訴える病態で、非全般性よりは重症と考えられます。

その後の研究で病態の輪郭が明確に

 社交不安障害の研究が進むにつれて、DSM-VからDSM-V-Rへ、さらにDSM-Wへと診断基準が推移することによって、社交不安障害の病態の輪郭がより明確になってきました。まず、DSM-VのT軸診断では、「人前で話す」「人前で字を書く」「会食する」「公衆トイレを使用する」といった、特定の社会的状況に対しての恐怖が強調されていました。ここでは主に、行為状況に対する恐怖や不安症状が示されていて、単一恐怖の一種という程度の認識でした。一方、全般的な社会的状況に対する恐怖症状や回避行動をとる症例は、U軸診断の回避性人格障害に分類されていました。しかし、その後において大規模な疫学調査などが行われて、社交不安障害は有病率が高いこと、うつ病やアルコール依存の併発が多いことなどが明らかになりました。さらに、社交不安障害の患者は特定の社会的状況に限らず、仕事や学業、婚姻など日常生活全般にわたって大きな支障をきたしていることが明らかになったのです。

 こうした状況を踏まえて、DSM-V-Rでは、1つや2つの社会的状況における症状の他に、様々な社会的状況において恐怖や不安、回避行動を示す全般性の特定をしたのが変更点の大きなポイントです。これによって、社交不安障害は非全般性と全般性の2つの亜型に分類されることになりました。また、全般性社交不安障害と回避性人格障害との関係性については検討されていますが、アメリカでは両者は診断的に重複していると考えられているようです。

 そしてDSM-Wにおいては、他人に見られることによる赤面や震えや発汗などの恐怖症状が診断基準に明記されたのが特徴的です。これらの社会的状況に現れる不安症状をコントロールできなくなることによって、また他者から注視され、失敗して恥ずかしい振る舞いをしたらどうしようかという予期不安に陥り、それが悪循環となって恐れることが示されたのです。同時に、恐怖は状況依存性または状況誘発性のパニック発作の形をとることがあると明記されています。また、子供の社交不安障害について注釈が加えられるようになり、その不安が大人との交流だけでなく、同年代の子供との間でも起こるものでなければならないと記載されています。

臨床症状評価尺度

 社交不安障害を正確に診断し適切に治療するためには、診断の手順と情報収集が先決となります。そのための評価尺度としては、面接者評価尺度、自己記入式重症度質問紙、行動評定などがあります。一般的に使用される測定ツールについて以下見てみたいと思います。

@LSAS:《面接者評価尺度》
 LSAS(Liebowitz Social Anxiety Scale)は治療者評価尺度で、テストA(不安や恐怖を感じる度合い)とテストB(回避行動をする度合い)があり、それぞれ24項目からなっています。設問は、広範囲にわたる社交場面や行為場面についての重症度を評価するためにつくられています。患者は、一連の社会的状況について、1週間の恐怖と回避の程度について最も感じている度合いを1つだけ選びます。テストAで、対人交流や行為に対する不安や恐怖感の度合いをチェックして合計点をだし、テストBでは対人交流や行為からの回避の度合いをチェックして合計点を出し、双方を合算します。LSASの心理測定学的特性について検証した研究はあまり行われていませんが、治療効果においては良い結果を得ており、この評価尺度の信頼性と妥当性を裏付けるものとなっています。
ABSPS:《面接者評価尺度》
 BSPS(Brief Social Phobia Scale)は、18項目からなる面接者評価尺度で、社交不安障害症状の重症度を評価するために作成されたものです。LSASと同様に、患者は様々な社交場面において、1週間の恐怖感と回避で最も感じている度合いを選んで得点とします。BSPSは、質問に含まれる社交場面の数はLSASよりも少ないけれど、社交場面で生じる身体症状についても質問しています。BSPS評価尺度の特徴は、LSASやADIS-Wよりも短い尺度で、実施時間も5〜15分程度で評価できる点です。ただし、評価をより高めるためには、他の面接形式の評価尺度と併用することを奨めています。また恐怖感や回避についての下位尺度は、身体症状についての下位尺度と比較すると、心理測定学的に優れていると言われます。
BADIS-W《面接者評価尺度》
 ADIS-W(Anxiety Disorders Interview Schedule for DSM-W)は、治療者が行う半構造化面接です。この評価尺度では、精神的問題についての診断のための情報と、そのほか重症度の情報も得ることができます。具体的には、不安障害、気分障害、身体表現性障害、物質関連障害に関する情報が含まれています。治療者は、面接を実施するにあたっては広範囲の訓練を必要とします。また、面接は数時間といった長時間を要します。このような欠点はあるものの、社交不安障害症状の有無を評価する明確な基準があることや、多くの社交場面における恐怖や回避の程度を評価する利点があるということです。また、ADIS-Wの高い信頼性と妥当性についても評価されています。
CSPIN《自己記入式重症度質問紙》
 SPIN(Social Phobia Inventory)は17項目の設問からなっている自己記入式質問紙です。社交不安障害にともなう一連の症状について、回答者がどの程度困っているのかが評価できます。内容は、恐怖感、回避、生理的覚醒の3下位尺度から構成されています。SPINの回答は、患者の1週間前の状態が回答されるので、治療期間中であれば1週間ごとの経過を測定するのに有効な尺度といえます。またSPINの利点といえば、実施の所要時間が数分という短さなので、患者は治療する前にすぐに回答することができます。カットオフ得点が19点(最高得点は68点)とあって、社交不安障害の人とそうでない人とを弁別するのに有効とされています。
DSPS《自己記入式重症度質問紙》
 SPS(Social Phobia Scale)は、20項目について回答する自己記入式質問紙で、他人から見られることに対する不安に焦点があてられています。回答者は、様々な社交状況ついて、どの程度の不安(「まったくあてはまらない」から「非常にあてはまる」の段階)に思っているかを回答します。尺度の状況には「公衆トイレを使う」「他の人たちがすでに着席している部屋に入る」「人前で気が遠くなったり気分が悪くなったりする」「人前で飲食をする」などがあります。簡便な尺度なので数分で回答できます。したがって、これを使って治療時の経過を毎週確認することもできます。SPSは治療効果への感度もよく、信頼性の高い質問紙となっています。
ESIAS《自己記入式重症度質問紙》
 SIAS(Social Interaction Anxiety Scale)は、SPSと併せて作成された自己記入式質問紙で、他人と交流する際の恐怖を評価するものです。具体的には「 パーティーに参加する」「会話中に困惑して話す」など、全部で19項目なので簡便で容易に実施可能です。SPSと同様に治療効果への感度はよく、尺度も関連していますが、評価においては異なる概念があるとされています。
FBAT《行動アプローチテスト》
 BAT(Behavioral Approach Tests)は行動アプローチテストといわれるもので、患者に恐怖の対象となる状況に直面するように教え、恐怖の対象となる行動をとるように指示し、その反応を確認するテストです。具体的な反応項目というのは、主観的な恐怖感の評価、逃避や回避、安全確保行動、不安の思考、身体感覚、状況の一側面の変化に対する反応などです。このBAT方式を用いることで、面接式や自己記入式の評価だけでは得られない重要な情報を得ることができます。一例としては、自分の恐怖感を最小限に評価する患者においては、ある状況からの回避について「ほとんどない」または「まったくない」と報告する場合がありますが、実際の状況に直面すると、身体が硬直することもあり得ます。またこのBATは、治療効果を評価するためにも有効な手段になり得ます。行動過程における行為の変化から、治療の効果についての情報を得ることもできます。

 社交不安障害でよく使われるBATは、患者に「他者と」「集団で」「ビデオカメラの前でスピーチをしてもらう」などの課題です。社交不安障害において最も恐怖の状況の一つといえば、スピーチです。スピーチ恐怖こそが、社交不安障害の診断のうえで重要なポイントになるからです。他のBATの例では、「自分から会話をしてもらう」「人前で自己紹介をしてもらう」などがあります。一般に臨床場面では、患者の恐怖や治療目標に関連した状況を選び、個人個人に合わせたBATを用いることが肝要となります。実際にBATを行なう場合は、最も強い恐怖の場面を治療者と患者で選びます。治療の前後においてその恐怖の場面に直面してもらい、治療期間中に複数回実施してもらうこともあります。BATを実施している間は、患者は自分の感じる苦痛の度合いを治療者に伝えます。0から100(または0から10でもよい)の段階(「全く恐怖がない」から「これ以上の恐怖はない」)の尺度で、患者の主観的な恐怖感を報告してもらい評価します。




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