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疫学的統計頻度

生涯有病率

 はじめに、1993年に行われたアメリカの「精神保健疫学調査」の報告から見ることにします。これは、アメリカ34州172都市の15〜54歳の住民8,098人を対象にした疫学調査です。それによると、アメリカの社交不安障害生涯有病率は全体で13.3%(内訳は男性が11.1%、女性は15.5%)と報告しています。つまり、一生のうち一度でも社交不安障害にかかる率が、7.5人に1人いることになります。また、1年有病率は7.9%と報告しています。アメリカではその後、2003年にデータの再検討がおこなわれ、臨床的に医療が必要なケースでは約7%と報告しています。各社会的状況における苦痛の生涯有病率は、@「公衆の前で話す」が30.2%、A「小グループで話す」が15.2%、B「用がないのに人に話しかける」が13.7%、C「外出先でトイレを使う」が6.6%、D「誰かが見ている前で書く」が6.4%、E「公衆の前で食べたり飲んだりする」が2.7%でした。そして、何らかの社会的状況において苦痛を感じる割合が38.6%でした。また何らかのスピーチに対する苦痛を感じる人は17.8%で、その中で社交不安障害と診断された人は35.8%でした。スピーチ以外の状況で苦痛を感じる人は20.9%おり、そのうち社交不安障害と診断された割合は64.0%でした。この調査から、スピーチに苦痛を感じる人の病理性は低いことを示唆しています。

 一方、同じころスイスで行われた調査によると、生涯有病率は16.0%と非常に高く、6〜7人に1人が社交不安障害にかかると報告しています。また。ドイツにおいても、14〜24歳の思春期や青年期の人達3,021人を対象にした疫学調査がおこなわれました。その結果、社交不安障害の生涯有病率は、男性で4.9%、女性で9.5%あり、そのうち3分の1は全般性社交不安障害でした。

 では日本における社交不安障害の発症率はというと、2002年の調査で生涯有病率が2.3%という報告があります。内訳は男性が2.7%、女性が2.1%です。この他、3〜5%という調査報告もあります。欧米に比べれば少ないですが、それでも約40人に1人が社交不安障害に罹患していることになります。この数値は、日本の精神疾患のなかでは「うつ病」についで多い疾患といえます。うつ病による自殺の頻度と社交不安障害による自殺の頻度では、それほど変わらないのに、うつ病に関しては自殺克服のための国家的プロジュクトが進められていることを考えると、社交不安障害に対する社会的な認知度はまだまだ低いといわなければなりません。

発症年齢

 次に、社交不安障害の発症年齢ですが、かなり早い年代で発症することが分かっています。研究者によって多少の差がありますが、平均発症年齢は15.5歳という報告がります。10代半ばでの発症が多く、日本においては中学3年生から高校1年前後の時期です。この発症年齢には二つの高い時期があり、一つのピークは5歳以下、もう一つは13歳とされています。つまり5歳ころまでと、11〜15歳ころにピークがあり、25歳までにほぼ発症してそれ以降の発症は非常に少なくなっています。この発症年齢は、欧米でもアジアでもそれほど変わりません。カナダにおけるスピーチ恐怖の研究では、13歳までに50%、17歳までに75%、19歳までに90%が発症しており、25歳以降の発症はまれです。

 このように社交不安障害は10代、20代の若い世代で発症することは知られていますが、では受診年齢はどうかというと、必ずしも発症年齢と一致しません。実際に医療機関を受診する人の平均年齢は、発症年齢よりも10歳以上も高くなっているという報告もあります。症状に悩みながらも、長い間、助けを求めずに我慢している人がいかに多いかがわかります。発症年齢が若いということは、早めに受診して治療しなければ、長期にわたって社交不安障害という病気に苦しめられ続けることになります。発症してから症状が改善していく人もいますが、なかなか症状が改善せず、悪化していく人も多くいます。長期に経過し、慢性疾患になることもあります。罹患期間の平均は、短いものでも10年から20年、長くなると30年という報告もあります。人前に出て話したり、人前で何かをしたりして、収拾のつかない恥ずかしい行為をしてしまうのではないか考えて恐怖となり、その辛い思いから回避しようという行為を重ねることもあって、社会的にも孤立していき、約7割の人が他の精神疾患を発症するという経過をたどります。多く見られる併存疾患としては、うつ病などの気分障害、パニック障害などの不安障害、アルコール依存症などが挙げられます。また、摂食障害やパーソナリティ障害、自殺企図なども見られます。

プライマリーケアでの有病率

 社交不安障害の患者は、最初から専門医を訪ねることは少ないです。たいていは、何らかの身体症状を訴え、一般的な医療機関などを最初に訪ねて受診するケースが多いです。そこで、このようなプライマリーケアにおける有病率はどの程度になっているか知ることも重要なことです。アメリカでは、何らかの精神障害を発症した人の場合、1年以内に医療機関を訪れています。報告によると、社交不安障害の患者のプライマリーケアにおける有病率は、2.9%、4.9%、7.0%といった報告があります。女性に多く、平均年齢は15.1歳で他の不安障害の患者より若い傾向にあり、学歴も低いです。また、他の精神障害との合併率も高く、大うつ病とは33〜58.3%、全般性不安障害とは26.8〜30.6%、物質乱用障害とは23.6〜25%合併率となっています。

 社交不安障害の場合、自殺への思いを持つ人も多く、特にうつ病を合併すると自殺企図の割合が高くなります。全般性社交不安障害の人においては、社会機能が顕著に低下し、医療機関へ頻繁に通っていることもわかりました。そして、社交不安障害の患者においては、治療を受けている人が少なく、治療薬を投与されている患者は20%以下という結果になっています。さらに特徴的なことは、パーキンソン病の患者において、しばしば社交不安障害がみられることが調査結果で明らかにされています。それによると、不安障害が24.5%あり、社交不安障害は11.5%でした。一方、不安障害の患者を追跡調査した結果、パーキンソン病が0.5%ほどみつかり、そうでない人と比べてパーキンソン病の発症率が1.5倍と高くなっていることもわかっています。

スピーチ恐怖の有病率

 社交不安障害の中で、もっとも多く見られる病態はスピーチ恐怖で、社交不安障害の患者の89.4%がスピーチ恐怖をもっています。スピーチ恐怖だけを訴える社交不安障害の患者は、全体の約3分の1割を占めているという報告があります。全般性社交不安障害の患者と、スピーチ恐怖のみを持っている患者を比較検討した結果、全般性社交不安障害の患者の方がより若く、教育水準や就労率が低く、また重症で、不安や抑うつが強く、認知機能も貧困であったという報告があります。つまり、スピーチ恐怖は他の社交不安障害とは異なった病態であることを示唆しています。

 カナダで行われたスピーチ恐怖の有病率の調査によると、回答者の約3割強において人前で話すことに過剰な不安を感じているという結果がでています。その発症年齢も早く、13歳までに50%の人が、17歳までに75%の人が、20歳までに90%の人が発症しています。スピーチ恐怖の内容を複数回答でみると、「恥をかく」が64%、「頭が真っ白になる」が74%、「話しつづけることができない」が63%、「バカなことを言ったりわけのわからないことを言ったりする」が59%、「震えやその他の不安の身体症状」が80%となっています。また、スピーチ恐怖で仕事に支障をきたす人が2%、社会生活で1%、教育で4%、著明な苦痛を感じる人は8%おり、DSM-V-Rの診断基準にあてはめると、スピーチ恐怖の有病率は10%に達しているといいます。しかし、スピーチ恐怖の95%の人がスピーチ恐怖以外の恐怖状況を持っていることも明らかになっています。スピーチ恐怖は、非全般性社交不安障害のなかでは恐怖がもっとも強いことを示しています。

まとめ

 社交不安障害は、有病率の高い精神疾患です。発症年齢も若く、自殺行動も多く、社会機能の障害も早期から認められる病気です。また、後年はうつ病やパニック障害、アルコール中毒などを発症させる基盤となる精神障害でもあります。これまで、数々の報告から明らかになったのは、社交不安障害の傾向があると考えられる人は、10人に1〜2人の割合にのぼっています。社会生活に大きな問題が生じているが1.9%、社会生活上、大きな問題が生じている、または本人の苦痛が著しいが7.1%、社会生活に問題が生じている、または苦痛をかかえている、が18.7%と多く、「自分だけが異常」と考えがちですが、似たような悩みを持つ人はたくさんいます。社交不安障害が疾患として認識されるようになってからまだ歴史も浅く、診断基準や調査方法、調査対象となった集団によっては数字も大きく変わってきます。受診が遅れ治療しないまま放っておくと社会的な損失も大きくなるため、早期の受診と治療が必要です。なお、疫学的な研究では男性より女性に多く発症しています。

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