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疾患の原因

 社交不安障害の原因については、現在のところよく分かっていません。発症の原因は単一なものではなく、複数の要因が関与しているものと思われます。不安や恐怖感が増幅されやすい脳内の生物学的要因、育ち方や経験などからくる環境的要因、また遺伝的要因などが考えられます。発症への影響は、遺伝的な要因よりも、育ち方や社会的な場面での経験など環境的な要因のほうが強いと考えられています。とくに育ち方の環境においては、過保護な育ち方をした人、逆に厳しく育てられて励まされたり褒められたりした経験がない人などに多いといわれます。これは、ストレス状況下で身の処し方を学ぶ機会が少なかったことや、同じ状況下で「うまくいった」という実感を得る機会が少なかったことが関係しているものと思われます。

生物学的原因

 原因がはっきりと解明されていないものの、社交不安障害を発症している患者においては、神経内分泌学的見地からの研究によって、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質が不足していることが分かっています。セロトニンやドーパミンなど、脳に存在する多くの神経伝達物質は、私達がもっている意欲や不安、喜びなど様々な感情を調節しています。何らかの理由で、この神経伝達物質のバランスが崩れると、不安を感じやすくなるのではないかと言われています。

 まず、セロトニン機能に関しては、神経伝達物質の一つであるセロトニンが不足することで脳の機能バランスが崩れ、不安を誘発して社交不安障害を発症させている要因の一つと考えられています。このセロトニン機能の障害は、おもにシナプス後5-HT受容体の感受性の上昇によるものと言われます。この機能調整に、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)による治療の有効性が確認されていることからも、セロトニン機能が社交不安障害の病態に関与していることは十分考えられます。ドーパミンと社交不安障害の関係性においては、パーキンソン病患者に社交不安障害の患者が多いことから、ドーパミン系の機能低下が関与しているのではないかと推測されています。それはSPECTによる脳画像を診断した研究で、社交不安障害の患者の線条体におけるドーパミンD2受容体の結合性の低下や、ドーパミン再取り込み部位の減少などがこれまでの研究で指摘されています。さらに、ノルアドレナリンの関与についても、これまでの研究で受容体機能の鈍化があげられています。このほかの神経伝達物質の関与においては、視床におけるコリン、クレアチニン、N-アセチルアスパラテートの代謝機能低下が挙げられています。このように、様々な神経伝達物質の機能異常が指摘されていますが、それは単独の神経伝達物質の異常によるものではなく、複数の神経伝達物質の相互関係のなかで病態を形成しているものと考えられます。

 ここで、脳のシステムの面から不安や恐怖の正体はどのようになっているのか、そのメカニズムを少し見てみます。


 脳の下部には生命維持に欠かせない働きをしている脳幹部がありますが、ここに「網様体」という部位があって、五感の知覚をトータルの刺激として「視床」に伝えています。視床は網様体から伝えられた刺激を大脳に送りますが、大脳の底の方に位置する「線条体」で、視床から送られてきた刺激を調節して大脳に送っています。この調節には神経伝達物質であるセロトニンやドーパミンが正常に働いて刺激を抑制していますが、このセロトニンやドーパミンが減少すると線条体の機能不全がおこります。線条体の機能が悪くなると、網様体から伝わってきた刺激が十分に調節されずに大脳(大脳新皮質、大脳辺縁系)に送られてしまいます。刺激が調節されずに大脳に送られると、大脳は不安と恐怖におびえ緊張が高まって、大脳全体が興奮して覚醒した状態になります。

 最近の研究では、海馬や扁桃体を中心とした大脳辺縁系が活性化して、強い不安を生み出しているのではないかと注目されています。とくに扁桃体は、様々な刺激に対して不安や恐怖を獲得する過程で、重要な役割を果たしているものと考えられます。扁桃体は、感覚入力を担う視床、物事を捉える前頭前野、記憶をつかさどる海馬、自律神経をコントロールする視床下部などと神経ネットワークを形成しています。このネットワークを介して、扁桃体は刺激に対する恐怖を学習し、危険を察知して回避する防御機能を担っています。したがって、私たちが危険を想像したり察知したりすると、扁桃体の神経細胞が興奮して予期不安や恐怖を引き起こします。さらにその興奮は、交感神経を刺激して活動性を亢進し、震え、発汗、心拍数や呼吸数の増加、などの身体症状を出現させます。扁桃体は人間の旧脳の部分で、人間の不安・心配・恐怖を感じる機能を受け持っています。通常扁桃体は神経細胞ネットワークの情報伝達を通じて、背外側前頭前野(DLPFC)という場所によってコントロールされています。通常、神経細胞ネットワークの情報伝達には、神経細胞同士をつなぐ樹状突起の接合部であるシナプスにおいて、セロトニンと呼ばれる神経伝達物質の分泌が必要です。



 ところが、社交不安障害では、このシナプスにおけるセロトニンの分泌が悪くなるために、扁桃体のコントロールがうまく機能しなくなり、過剰な不安・心配・恐怖が生じます。そのため、近年では、シナプスにおいて、セロトニンの再取り込みを阻害するSSRIという薬物により、シナプス間隙でのセロトニン濃度を上昇させ、神経細胞ネットワークの情報伝達を活性させることによって、社交不安障害を根本的に治療することが可能となりました。

体験的・性格的・遺伝的・環境的な要因

 では、なぜセロトニンなどの神経伝達物質が不足したりするのかということですが、その原因として考えられることは「体験的要因」「性格的要因」「遺伝的要因」が複雑に絡み合って神経伝達物質に影響を及ぼし、ひいては社交不安障害を発症させる要因となっているものと考えられます。

 まず「体験的要因」とは、人の注目が集まる中で「とても恥ずかしい思いをした」「屈辱的な扱いを受けた」「頭の中が真っ白になったりした」など、主に人前での自分自身の失敗体験をいいます。また、他の人が失敗して恥ずかしい思いをしているのを見て、それを無意識に自分に置き換えてしまう間接体験も含まれます。そして心の中では「なんてみっともない姿を見せてしまったのか」と自分を過剰に責めたりします。こうしたいやな体験や経験をすると、“いや”な部分ばかりを強調して考え込んでしまい、もう二度とこのような体験はしたくないと思いはじめます。その強い思いは、今度は恐れている“いや”な状況を回避し続けようとします。その不安や恐怖はいっこうに解消されないばかりか、むしろ増大していくばかりです。もちろん人前で恥ずかしい思いをしたという経験をした人が、すべて社交不安障害になるわけではありません。

 また「性格的要因」とは、「自分を常に良く見せようとする人」「完璧主義の人」「他人からの評価を気にしすぎる人」「引っ込み思案で人見知りの激しい人」といった性格の人のことです。このような性格の人は、人前で失敗することを過剰に恐れるため、恥をかきそうな場面を避け続ける「回避行動」の傾向があります。成功体験を経験する機会が少なくなるために、社交不安障害が発症しやすくなるのです。逆に前向きな性格の人は、人前で失敗してもくよくよせず、どんな場面でも避けずに立ち向かう傾向があるので「成功体験」を得やすく、自分に自信がもてるため発症しにくいと考えられます。これは遺伝的な要素もありますが、引っ込み思案の性格の子供は、親もまたそうした傾向が強いです。引っ込み思案の親の回避行動をみて、子供がそれを学習してしまうという面があるのです。

 次に「遺伝的要因」ですが、これは生まれつき脳内の神経伝達機能に何らかの異常があることによる発症要因です。このような遺伝的要因をもっている人は、不安や恐怖を感じやすく、それが極度の緊張へとつながっていき、発症のしやすさにつながっているものと考えられます。健康な人の場合、両親や兄弟や子供など身近な血縁者では、社交不安障害を発症する確率は5%ですが、全般性社会不安障害(あがり症・対人恐怖)の患者の場合、発症の確率は16%に上がるという報告があります。また双子の場合、2人とも患者である確率は、二卵性よりも一卵性のほうが高いという報告もあります。いずれにしても、単一の要因ではなく、複数の要因が背景にあるものと思われます。

 最後に「環境要因」です。この環境要因も社交不安障害の発症に関与していると考えられています。社交不安障害の患者の子供の場合、両親の恐怖反応を日常的に観察することによって恐怖を学び、両親の恐怖に対する回避行動を見ていて回避のパターンを学習していくと言われます。実際に、社交不安障害の患者の回避行動をみていると、母親の回避行動パターンによく似ていることが指摘されています。これはおそらく、両親の子供への過保護的な行動がストレス状況に暴露される機会を少なくしており、それが子供にとってコーピングスキル(対応能力)が獲得できない理由になっているものと考えられます。したがって、ストレス状況に遭遇すると予期不安を強く感じ、回避行動をとるものと思われます。両親が社交不安障害の患者であるという環境要因が、子供を社交不安障害の患者に育ててしまうというものです。

社交不安障害の持続原因

 社交不安障害の病態の一つとして、症状が持続し長引くという特徴があります。社交不安障害の場合、いったん発症すると不安感が悪循環し、ネガティブな経験を持続することになります。先に発現した不安が、次の社会的状況下においてもまた失敗するのではないかという考えでいっぱいになり、実際の社会状況下での行動が障害されてしまうことがあります。このようなネガティブな経験が重なっていくことで、今度は将来的に起こりうる社会的状況に対してそれが予期不安となって、不安がいっそう増幅されます。そこで、その恐怖状態となっている社会的状況を避けようとし、実際に回避することによって不安が軽減されますので、さらに回避行動が強まることになります。確かに回避すれば不安は一時的に軽減されますが、回避行動をとることによって、かえって社会状況下でのポジティブな経験をする機会が失われることにもなります。つまり、ネガティブな認知が強く継続することになります。こうして、社交不安障害は、予期不安が回避行動を生み、回避行動がまた予期不安を強めるといった悪循環となって症状を持続させている原因となっています。この悪循環を断ち切ることが症状回復への手がかりとなり、心理療法としての行動療法が大きな意味を持つことになるのです。

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