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一般的な症状

 社交不安障害の症状の特徴は、DSM-W(アメリカ精神医学会・精神疾患の分類と診断の手引き)の診断基準から見て取ることができます。そこには、「社会的な状況に対して顕著な恐怖を感じ、患者自身においても病識があって、恐怖を回避するので社会生活が困難となるために苦痛を著しく感じる」とあります。さらに、身体面でも赤面や震え、発汗などの不安症状がでることを恐れると明記されています。

 では実際に、社交不安障害の患者における不安や恐怖、また回避行動の状況とはどういうことなのかというと、まず挙げられるのは人前での会話や書字、大勢の人がいる場所での飲食、知らない人との面談などがあります。そのような状況や場面において、患者は相手に声の震えや顔のひきつり、手の震えなどを気付かれ、自分は恥ずかしい思いをするのではないかと考えて、非常に不安になります。そのため、人前で話したり食べたり書いたりすることを避けようとします。このように、社交不安障害の患者はいつも不安症状を体験しており、同時に不安に伴う生理的な反応が現れるのもこの疾患の特徴です。その生理的な反応である身体症状として現れる主なものといえば、赤面、発汗、動悸、手指振戦(手の震え)、声の震え、胃腸の不快感、下痢などが挙げられます。

 社交不安障害の患者の症状を健常者と比較した調査報告があります。それによると、社交不安障害の患者グループにおける恐怖と回避の頻度の高い順は、@多くの人前で話す、A他人の視線を浴びる、B人前で字を書いたり演奏したりする、C目上の人と話す、D社交的な集まりに出る、の順序となっていました。これに対し、健常者グループが恐怖と感じる頻度の一番高いのは「人に叱られる」であり、次に「人の前で話す」となっています。これでわかるように、社交不安障害の患者および健常者においても、双方に共通していることは「人前で話す」ことが最も恐怖であり不安であることがわかったのです。では、違いは何かというと、患者のグループで2番目に頻度の高かった「他人の視線を浴びる」が、健常者においては有意に低い頻度であることがわかったのです。この結果から言えることは、患者は「人の視線を浴びる」ことで、健常者と比較して想像上の恐怖を感じる傾向にあるということです。また「スピーチ恐怖」は健常者にも多いという観点から、病理性は低いという考察をしている点は興味深いところです。一方、身体症状についての調査によると、患者では「発汗」「震え」「動悸」「赤面」「筋肉のこわばり」の順に頻度が高くなっており、これを健常者の身体症状と比較すると、「震え」「筋肉のこわばり」については患者のグループにおいて多く見られることから、より病的な身体症状であると結論しています。以上のことから、社交不安障害の症状の特徴としては「他人の視線」に対する不安や恐れが強い傾向にあり、身体症状では「顔のこわばり」や「震え」が多く見られる点にあります。

 一般的には、誰でも人前で話をしたり初対面の人に会ったりするときは、多かれ少なかれ緊張します。これを「社会不安」といいます。ところが、その緊張が極度に高まって苦痛を感じ、社会生活に支障をきたすような状態になると社交不安障害といって、治療の対象になります。社交不安障害の症状は「心の症状」と「体の症状」の両面において現れ、具体的には次のようなものが挙げられます。

精神症状

1.人前で話すとき極度に緊張する
 「スピーチ恐怖」といわれ、会議での発言、披露宴のスピーチ、朝礼のあいさつ、PTAの集まりでの発言など、人前で話す機会が増えたことをきっかけに、しばしば現れる症状です。言葉に詰まってしまったり、しどろもどろになったり、声や体が震えるなど緊張の現れかたは様々です。とくに初対面の人の前で話す時とか、肩書きの偉い人の前で話すとか、大勢の人に囲まれて面接を受けるなどは、非常に高いハードルになります。このほか、デートなども怖くなります。彼女と話すとき過度に緊張したり、おしゃれなレストランに行くこと自体が苦痛になったり、周りの人が注目しているのではないかと気になったりします。それによって結婚が破綻したとか、学校へ登校できなくなったとか、会社に出勤できなくなったなど、現実の生活に支障をきたすようになったら病的な状態と考えられます。
2.人前で字を書こうとすると手が震えてしまう
 結婚式や葬式などのときに受付の人の前で記帳したり、窓口係の面前で申込書を書いたりするときに、手が震えて字がうまく書けない状態になります。会社でも、営業で出向いて相手に説明しようとしたとき手が固まってしまい、震えて字が書けなくなることもあります。また学生なら、黒板に板書できなくなって、講義や授業に出るのが億劫になります。いったん意識しだすと、人前で字を書くことに恐怖感を覚え、ますます震えが強くなります。書くとき手の筋肉がこわばって、実際に書くと震えたような字になりますが、これを書痙といいます。
3.電話に出るのが怖い
 「電話恐怖」といわれ、オフィスなどで電話をとれないというタイプです。電話で話すとき舌がもつれたり、声が震えたり上ずったりするのではないかと気になったり、周りの人がいる中で電話応対に失敗するのではないか、また電話の相手に変に思われはしないか、などという強い不安感を抱きます。たとえば、就職活動しようと思っても電話が怖くて躊躇し、ましてや面接など怖く感じてしまいます。
4.人と一緒だと食事がのどを通らない
 これは「会食恐怖」と呼ばれるタイプです。自分の食べ方が相手に不安感を与えるのではないかと考え、人と一緒に食事することが怖くなります。レストランに行っても、人に見られていると思って緊張し、食事がのどに詰まります。「美味しそうに食べられない」「噛んだり飲んだりする音がうるさいのではないか」「全部食べなければ」などと気になります。
5.お茶を出したりするとき手が震える
 来客にお茶を出すとき手が震えたり、名刺を交換したりするときや、酒の席で酌をするときに手が震える人もいます。
6.1対1になるのが怖い
 相手が仲のよい友達であっても、1対1になると緊張感を強いられる人もいます。また相手が異性の場合、とくに緊張感が高まり、会話できなくなってしまう人も少なくありません。
7.目上の人の前で話せなくなってしまう
 会社の上司など、目上の人の前での会話が極端に苦手という人もいます。「ダメな人間だと思われはしないか」という思いが緊張感となって、満足な受け答えができなくなってしまいます。
8.初対面の相手にはガチガチに
 初めての相手にどう思われるのか、変に思われはしないか、どう振る舞えばよいか分からなくなってしまうことがあります。あとで、その時の様子を思いだし、あれこれ思い悩む人もよくいます。
9.顔見知り程度の人との対面が苦手
 それほど親しくはないが、見知らぬ人でもない、といった人との交流に対しては、強い緊張感や恐怖を覚えることがあります。つまり、顔見知り程度の人との関係では、どのくらいの距離を保てばよいのかが難しいからです。お茶会やPTAの集会などが恐怖の場にもなります。
10.人前でお腹が鳴るのではないかと心配でたまらない
 人前で「お腹が鳴ったらどうしよう」「おならが出たらどうしよう」と強く悩む人もいます。シーンと静まり返った席上や会議の場、静かな職場などではさらに悩みは強くなります。満腹の状態でなければ、人が集まる場所に行けなくなるため、行動範囲が狭くなってきます。
11.近くに人がいると排尿できなくなってしまう
 職場のトイレや公衆トイレなどで、他の人が入ってきたり、後ろに並ばれたりすると、「早く用を足さなければ」といった思いが強くなり、かえって出なくなってしまうタイプで「排尿恐怖」といわれます。誰もいないトイレなら、普通に排尿できます。
12.他人の視線が怖い
 他人から見つめられると、「視線に射られるような感じ」を受けたり、「自分の行動がいつも監視されているような気がして緊張する」「他人が自分のことをうわさしているような気がする」と訴える人も少なくありません。他人の目に自分がどう映っているのか気になって、行動が制約されてきます。
13.自分の視線が不快感を与えそうで怖い
 自分の目つきや視線が、相手に不快感を与えているのではないかと思うと、どこに目を向けていればよいかわからないという人もいます。したがって、人と一緒にいること自体が苦痛になってきます。
14.家以外の場では常に緊張を強いられる
 ごく親しい人は除いて、外ではどんな相手に対しても緊張を覚え、体がガチガチになってしまう人もいます。
15.他人の言葉や表情にひどく敏感
 他の人の言葉や表情を深読みしたり、他人の心のうちを推測したりして落ち込みます。人との接触が怖くなったりします。
16.コミュニケーションの取り方がわからない
 会社の同僚やクラスメイトと何を話せばよいのか、どんなふうに声をかければよいのか、話しかけられたらどう返答すればよいのか、コミュニケーションの取り方が分からず、あれこれ思い悩みます。
17.どこにいても孤立してしまう
 自分以外の人はみな仲が良いように見えて、その中に入っていけない、溶け込んでいけない、浮いてしまって孤立してしまう思いになります。したがって、人との接触そのものに強い苦痛を感じるようになります。

身体症状

1.赤面
 緊張したり、恥ずかしい思いをしたり、うろたえたりすると、誰でも頬が紅潮したりしますが、それが自然な現象とは思えず、赤面する自分を強く恥じる人がいます。したがって、人前に立ったり、目上の人や異性などと話したり、赤面しそうな状況をことごとく避けるようになります。こういうタイプは「赤面恐怖」と呼ばれています。
2.震え
 手の震えや体の震えなど、緊張感が震え(振戦)として現れることはよくあります。しかし、意識しだすとますます悪化することがあります。手や体が震えると、職業上において深刻な問題になることがあります。医師であれば手術ができなくなったり、看護師であれば注射器を扱えなくなり、理容師であればカミソリを使えなくなったり、演奏家であれば人前で楽器を演奏できなくなったりします。
3.発汗
 緊張が高まってくる場面で、流れるような汗をかき、なかなか止まらないことに悩む人もいます。発汗が気になって、人との接触をためらうようになったりします。緊張すると汗がでるのを「発汗恐怖」といいます。
4.動悸、頭痛、吐き気、口の渇き、息苦しさ、顔のこわばり、便秘や下痢、めまい
 緊張を感じると、いろいろな身体症状が現れ、悪循環に陥って悩みの種になり、苦手意識がさらに強まってきます。


 以上にあげた社交不安障害の症状は、人それぞれによって現れ方が違います。普通の人でも人前で話そうとしたり、初対面の人に会ったりすると、多少の緊張感は当たり前ですが、問題は緊張や恐怖が度を超して極度の苦悩となり、社会生活に支障をきたす場合です。この状況を社交不安障害といい、治療を要する対象になるのです。中には、緊張感に伴う症状は「性格の問題」にすぎないと思い込み、なかなか苦しみを訴えられずにいる人も大勢います。また、家族やごく親しい友人と過ごすプライベートな場面では、とくに問題が生じない場合も少なくありません。そのために、「疾患である」と認識されず、それは「極度のあがり性」とか「心配性」などといって片付けられてしまう例も多くあります。

 しかし、本人の悩みは深刻で、自ら行動範囲を狭めてしまい、社会生活に溶け込めずに孤立していくこともあります。

 社交不安障害の根底には、対人接触における苦痛があります。その特徴的なものが視線への恐れです。「見られている」と感じるために、社会的な場面で緊張が極度に高まっていきます。動物は一般に相手を威嚇するために「じっと見つめる」という行動をとります。人間も動物の一種であるために、「見つめられること」で恐怖感がわき起こるのは当然と言えます。ただ、人間が誰かに視線を投げかけられる場合、マイナスの感情だけが込められているというわけではありませんが、それでも他人の視線に恐怖を抱くことが多いです。人とのかかわりに苦痛を感じる状態を、日本では昔から「対人恐怖」とよんでいます。社交不安障害と対人恐怖はまったく同じものではありませんが、重なるところがあります。社交不安障害の基本的な症状は、社会的な場面で起こる不安や恐怖といった心理的な問題ですが、同時に患者にとっては身体的な症状も悩みの種です。いずれにしても、社交不安障害は治療可能な疾患ですので、過度の苦痛を感じたら早期に受診する必要があります。

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