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社交不安障害 (あがり症)とは             ※ 旧称:社会不安障害

 社交不安障害(SAD:Social Anxiety Disorder)は、アメリカにおける大規模な疫学調査によって高い生涯有病率が知られるようになり、それ以来、社会生活上の障害が大きい疾患の一つとして注目を集めています。またそれに伴い、近年多くの研究や症例報告が行われ、発症原因についても様々な報告がなされています。

 社交不安障害を一言でいえば、社会での交際の場や人前や観衆の前で何らかの行為をするとき、強い不安や緊張、恐怖を感じたり、またその状況を避けたりすることによって、日常生活に支障をきたす病気のことです。社交不安障害の人は、人前で常に恥ずかしい思いをしたり、困惑したり、悪い評価をされるのではないかと心配をしたり、他人にじろじろ見られているのではないかという不安に陥っています。病気ではない人においても、人前で何か行為をしようとすると、神経質になったり、内気になったり臆病になったりすることはよくあります。ある研究によると、人口の約40%の人は慢性的に「恥ずかしい」という不安の気持ちを常に持っているといいます。社交不安障害と診断される人は、この「不安」症状が普通の人と比べて顕著で持続的であるという点が特徴的です。それゆえに、強い苦痛を伴い、職業や学業、人間関係をはじめとする日常生活の機能全般に支障をきたすことになります。社交不安障害の人が、しばしば不安や恐怖を感じる場面というのは以下のような状況においてです。

  • 初対面の人と会って会話をするとき。
  • 多くの人前で話すとき。
  • 人前で電話をしたり、文字を書いたりするとき。
  • 目上の人と会話をしたり食事をするとき。
  • 会議や議論の場で、自分の意見を述べるとき。
  • パーティーや集会に参加するとき。
  • 異性と話したりするとき。
  • 授業中に指名されて意見を述べるとき。
  • 人前で失敗したとき。
  • 多くの人の注目を浴びるとき。
  • その他の社交の場で。

 このように、様々な場面や状況において恐怖を感じますが、これにはもちろん個人差があります。一つの特定の場面(たとえばスピーチの場面)のみで恐怖を感じる人もいれば、2〜3の状況で恐怖を感じたり、さらにはほとんどすべての社交場面において恐怖と苦痛、不安を感じる人もいます。症状の現れ方や度合い、発症頻度は人によって違います。また赤面、震え、発汗などの身体症状を伴うこともあります。

 この社交不安障害は、中学生や高校生などの年代に最も多く発症しています。思春期は、自意識が芽生える年頃でもあり、他人から自分はどう見られているのかが気になります。人の視線を強く意識するようになり、人前で失敗したくない、失敗したらどうしようという不安が強まります。発症のきっかけも「授業中に先生に指名されてうまく答えられなかった」とか、「異性の前で、上がってしまって赤面した」とか、「壇上で大勢の人の前で話そうとしたら、急に頭の中が真っ白になって、立ちすくんでしまった」など、人によって様々です。共通して言えることは、1人でいるときは問題なくできることが、人が見ている前ではできなくなることです。また、一度失敗すると、「次も失敗するのではないか」という不安に襲われ、その状況を避けようとします。他人から見ればささいなことが、本人にとってみれば大きな不安であり恐怖なのです。

 これまであがり症や赤面恐怖、また対人恐怖などは本人の性格の問題として考えられており、性格だから仕方ない、そのうちに治るだろうと考え、人知れず悩みをかかえて生活していた人がたくさんいました。実は、これらの症状は社交不安障害という病気であり、治療すれば治る確率が高いことが近年になってわかってきました。この社交不安障害は、一つの精神疾患であり、長い経過をたどる不安障害の一つで、薬物療法や認知行動療法で治すことが十分可能であることが、最近の精神医学の進歩によって証明されています。

社交不安障害の概念と歴史的経緯

 社交不安障害という病気の概念は、今から30数年ほど前、アメリカ精神医学会(APA)が発表した『精神障害の分類と診断の手引(DSM-V)』(1980年改訂 第3版)において、「社交恐怖」が登場したのが最初です。そして14年後の1994年に、改訂版(DSM-W)が出され、ここで社交恐怖に「社交不安障害」が併記されました。最近は、社交恐怖より「社交不安障害」という病名が多く使われるようになりました。(この社交不安障害を「社会不安障害(あがり症・対人恐怖)」と呼ぶ場合も多いですが、日本精神神経学会で再検討した結果、「社交不安障害」という呼称に変更されています。本章でも基本的には「社交不安障害」を用いています)。いずれにしても、社交不安障害は、病名ができて、20年そこそこの浅い歴史しか経っていない新しい概念の病気です。

 これでわかるように、社交不安障害と社交恐怖(Social Phobia)の概念は基本的に同じです。それは、DSM-Vにおける社交恐怖において「人の視線にさらされるような状況における恐怖」や「自分が人前で恥をかいて、困ってどうしたらよいかわからないような行為をするかもしれないという恐怖」と説明し、臨床的な特徴としています。さらに、社交恐怖の人は「そうした状況や行為を避けようとするが、それができない場合は強い不安や苦痛を感じる」と述べているように、社交不安障害の概念と同じ内容になっています。

 ところで、日本では以前から「対人恐怖」という概念がありました。その説明では「他人と同席する場面で、強い不安や緊張が生まれ、他人に軽蔑されたりしないか、他人に不快感を与えたりするのではないかと悩むことから、対人場面を避ける神経症」となっています。この症状は、森田神経質という概念の中心的な病態としてもあげられており、それに伴う視線恐怖、赤面恐怖、体臭恐怖などについても記述されています。このことから、対人恐怖の概念は社交恐怖ときわめて類似しており、共通していることが明らかといえます。

 日本における対人恐怖の歴史は古く、100年ほど前から精神科臨床で注目されていた病気です。病態としての概念は広く、気遣いや人見知りなど対人関係における正常な範囲での緊張から、神経症レベルの恐怖症、さらには精神病との鑑別に迷うようなものまで、様々な症例が含まれていて、対人恐怖という病名のもとに多様な患者を対象にした研究が数多くなされてきました。したがって、対人恐怖は精神科医だけに限らず、広く一般の人にも知られていた病気であり、民間療法のような書籍も多く出版されて実践されてきました。こうした長い歴史のなかで日本独自の対人恐怖に対する診断や治療法が確立されてきたことを考えると、日本の社交恐怖(Social Phobia)の研究は、世界に先駆けて進められていたともいえます。

 何よりも、社交恐怖という病気の概念が、世界で初めて登場したのが1980年(DSM-V)という近年のことで、それまではどこの国にもSocial Phobiaという言葉は存在しなかったばかりか、諸外国の精神医学の専門書等にもそれに類似した症例や研究論文はほとんど見られませんでした。したがって、DSM-Vで発表されるまでは、対人恐怖は日本特有の文化や社会と密接に関連した日本にしかない病態として考えられていたので、DSM-Vで対人恐怖と同じ症例が世界各国に存在すると言われても、日本の精神科の関係者にとってはにわかにSocial Phobiaを素直に受け入れることはできなかったのです。しかし、いつまでもSocial Phobiaを無視する訳にはいかなくなりました。まず、1980年にアメリカ精神医学会のDSM-Vに病態としてのSocial Phobiaが登場し、1992年には世界保健機関(WHO)の国際疾病分類第10改訂版(ICD-10:精神および行動の障害-臨床記述と診断ガイドライン)にも登場するようになりました。そして1994年に改訂版(DSM-W)で社交恐怖と社交不安障害が併記されるに至り、その後も諸外国からも研究論文や症例報告等が相次いで専門誌などに発表されるなかで、日本の対人恐怖を世界基準としての社交不安障害に合わせざるを得なくなりました。さらに、厚生省(厚生労働省)による保険病名をWHO分類(社交恐怖)に準拠するよう指示があったことも、大きな理由となっています。こうした経緯のなかで、1994年のDSM-WにおいてSocial Phobia(Social Anxiety Disorder)という形で併記されたことで、今日国内においても社交不安障害という病名で呼ばれるようになったのです。

 社交不安障害とはどういう病態のことをいうのか、その診断基準となっているのが、1994年にアメリカ精神医学会が改訂したDSM-W(詳しくは「診断」の章)、および1992年にWHOが改訂したICD-10(詳しくは「診断」の章)等です。この中で、DSM-Wでは「他人の注視を浴びるかもしれない社会的状況、または行為をするという状況の1つまたはそれ以上に対する顕著で持続的な恐怖を抱き、しばしば恐怖を抱く状況を回避する」と定義しています。またICD-10では「他人にじろじろ見られることが恐怖」と記述されているように、社交不安障害の概念が明らかにされています。

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