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非定型うつ病の発症要因

 非定型うつ病のようなうつ病が、「なぜ現れるのか?」「原因は何なのか?」といった疑問が、本人も家族や周囲の人も一度は考えると思います。しかし残念ながら、現在では非定型うつ病の起こる原因そのものについては、未だに解明されていません。ただ、発病するきっかけや誘因については、これまでの研究で明らかになっているものがあります。発病に関与しているとして考えられるものは、ストレス、性格、遺伝、脳の神経伝達物質、家庭環境や教育、社会環境などが挙げられます。

ストレス

 ストレスは、うつ病発症の重要なリスク要因の一つとされています。ストレスは心にも体にも影響して、うつ病に限らずさまざまな病気を引き起こすリスクファクターであることは、これまでの研究や臨床においても明らかにされています。日頃、私たちはストレスに晒されながら生活しており、普通であればそのストレスも心の働きでうまく処理されています。ところが、このストレスが強すぎたり、また蓄積されたりすると、私たちの生体である心身はさまざまな悪影響を受けることになります。

 例えば身体面であれば、自律神経系や免疫系、内分泌系に作用して体調を崩すことになります。精神面においては、イライラしたり不安になったり、気力が低下したり、またうつ状態を招くことにもなります。だからといって、ストレスが全くないのも、心身の緊張感がなくなって、逆によいことではありません。ある一定のストレスは大事ですが、問題はその強さや程度によると同時に、ストレスを受け止める側の抵抗力の強弱にもあります。あの人はストレスに「強い」また「弱い」という言い方をするのもそのためです。うつ病になるかならないかも、ストレスと人体との関係のなかで起きているものと考えられます。

 そもそもストレスとは、「心に受けた刺激によって起こる精神的な緊張」ということになります。正しくは、カナダのセリエ博士のストレス学説によると、刺激そのものをストレッサーといい、それによって引き起こされる体の緊張をストレス反応と分けて呼んでいます。ストレッサーにはいろいろあって、身体的なもの(空腹、痛み、熱など)、心理的なもの(怒り、悲しみなど)、物理的なもの(騒音、寒暖、細菌など)、社会的なもの(仕事、人間関係、経済問題など)さまざまです。つまり、このストレッサーの強弱と、それによって引き起こされるストレス(緊張)の強弱の力関係のなかで、うつ病を始めとする病気が発生しているものと思われます。一般的には、ストレッサーもストレスも含めて「ストレス」と呼んでいます。非定型うつ病の発症も、このストレスが何らかの要因の一つになっていることは避けられないと思います。

性格

 性格も、非定型うつ病の発病に深くかかわっている誘因のひとつといえます。例えば、同じストレスでもそれをどのように受け止めるかは、性格によるとされています。また性格には個人差があります。では、うつ病(定型うつ病)になりやすい性格(気質)はどんな性格か、また非定型うつ病になりやすい性格はどのような性格なのか考えてみたいと思います。

 うつ病になりやすい病前性格としてよく知られているのが「メランコリー親和型」性格と「執着気質」で、どちらも定型うつ病の人に多く見られます。テレンバッハが唱えた「メランコリー親和型」の性格を言葉で表現すると、秩序を重んじ、規律に厳しく、几帳面、まじめ、勤勉、誠実、律儀、気配り、世話好き、他人への気配りといった内容の性格です。とにかく、ものごとや人間関係が秩序どおりになっていないと、気が済みません。秩序が変わったりすると敏感に反応し、変化には非常に弱い側面を持っています。ですから、定年、結婚、転職、出産、家族との死別などの変化をきっかけに、うつ病を発症する人が多いのです。また人への気配りでは、八方美人的に他人に気を使い過ぎ、自分の能力以上に仕事を引き受けて、ついには身動きがとれなくなってうつ病を発病するケースが多いようです。

 もう一つの「執着気質」ですが、これも「メランコリー親和型」とよく似ていて、仕事熱心、几帳面、集中力、こり性、正義感、責任感が強いのが特徴です。このような性格のため、頼まれたら断りきれず、仕事でも何でも自分一人で抱え込み、頑張り過ぎて心身が疲労し、やがてうつ病を発症します。うつ病患者の90%以上に、この執着気質がみられるといった報告もあります。この執着気質は、日本人の典型的な精神性ともいえるもので、日本のバブル期を支えてきた団塊世代の人を中心に多く見られます。ところが、時代の進歩とともに、社会構造の変化、価値観の多様性、リベラルな思想などが浸透してくるなかで、形式や秩序にとらわれない、自由で気ままな生き方を求め、仕事もほどほどにやり、自己中心的なタイプの世代が台頭してきました。21世紀になって、非定型うつ病の人が増えてきた背景には、こうした日本人の気質の変化があるものと考えられます。

 非定型うつ病の人の病前性格をみると、従来型のうつ病とは大きく異なった性格特性があります。非定型うつ病の人の養育歴をみると、幼いころから褒められることが多く、手のかからないおとなしい子供で、学校の成績も優秀で、周囲からの評判もよく、いわゆる「良い子」だった子供が多いのです。成人して会社に勤めても、職場で褒められ、高い評価を得ています。ところが、ひとたび上司から注意を受けたり、仕事で失敗したり、批判されたりすると、それが本人にとって大きなストレスとなり、精神的なダメージを受けることになります。人から褒められても、内心は自信がなく、他人からどう評価されているかが常に気になり、不安を感じています。他人の目を気にするあまり、自己主張もできず、小心で対人関係にも臆病になります。人から叱られたり批判されたりした経験が少ないため、ちょっとした失敗でも大失敗ととらえ、激しく落ち込み、また何気ないひと言に過敏に反応して、激しく怒ったり感情を爆発させたりして、感情のアップダウンが大きいのが非定型うつ病の特徴です。

 では、非定型うつ病になる場合の性格的なポイントは何かというと、一つは「対人緊張」です。自分は、他人からどう思われているかを非常に気にします。人から嫌われたり批判されたりすることを極度に恐れますので、常に他人に対する緊張感を抱いています。ですから、人に気に入られようとして、自己主張をせずに自分を殺して人に尽くします。しかし、こうした対人緊張という行動パターンがいつまでも続くわけがなく、やがて破綻して落ち込み、それがきっかけとなって発病することが多いのです。この対人緊張は、非定型うつ病になりやすい性格を考えるうえで重要なポイントです。

 次に大事なポイントは、「不安気質」がこの病気の根底にあるということです。その意味で、非定型うつ病は他の精神障害を併発しやすい病気といえます。最も併発しやすいのが「パニック障害」で、次に多いのが「社交不安障害」(対人恐怖)となっています。強い不安感があるため、人に対する恐怖感がつきまとい、人前ではあがりやすく、臆病で小心になりがちです。嫌われたらどうしよう、失敗したらどうしようというマイナス思考に陥って、悪い方へ悪い方へと考えるようになります。このほか、性格の変化があります。非定型うつ病の人の発病前は、優れた人格の人が多いとも言われます。つまり、発病したために性格変化を起こして、本来の性格とは異なる性格を見せることがあります。それは、人の注意を引きたい、賞賛の的になりたい、非難されると弱いといった性格に変わったり、また思いやりがなく、無神経で軽薄になったりすることもあります。一部の人に、このような性格変化が起こることがあります。

遺伝

 非定型うつ病が、遺伝する病気であるかどうかですが、現在のところ遺伝との関係については解明されておらず、不明です。ただ、家族性という点では、ある一定の傾向があることは、これまでの調査でわかっています。つまり、原因に関係なく、同じ家族に多く発病している傾向が強いということです。確かに、家族であれば、素質や体質、性格などが似ていますし、生活環境や習慣も同じ場合が多いので、他のケースよりも発病率が高くなっているのではないかと考えられます。

 2003年に行われたアメリカの疫学調査でも、他のうつ病と比べて、非定型うつ病は家族性発症の率が高いという報告をしています。これによると、非定型うつ病の患者のうち約70%は、両親のいずれかがうつ病であり、60%強の患者においては母親がうつ病、そして約45%の患者においては父親がうつ病であることが伝えられています。さらに、非定型うつ病の家族には非定型うつ病の患者が多く、他のうつ病の家族には非定型うつ病以外のうつ病の人が多いという報告もされています。これは、非定型うつ病とその他のうつ病の病因が異なることを意味していることにもなります。

 またある調査報告によると、一卵性双生児では、一人が非定型うつ病になっても、もう一人が非定型うつ病を発症する確率は47.3%と約半分にすぎませんでした。100%でないということは、全く同じ遺伝子を持っていても、半数は発病しないことになります。ただ、家族に非定型うつ病の患者がいる場合は、自分を含め他の家族も発病する可能性があることは知っておく必要があります。遺伝については過剰に心配することはありませんが、うつ病についての知識や、普段の生活においてストレスを溜めないよう心掛けることが大切です。

神経伝達物質の働き

 うつ病と脳内のメカニズムの関係は、切っても切れない関係にあります。そもそも、うつ病は脳の調子が崩れたときに起こる病気だからです。脳とうつ病の研究も進み、脳の中でどのようなことが起こっているのか、少しずつ明らかになってきました。その一つは、脳内にある神経伝達物質です。この神経伝達物質は、脳の神経細胞と神経細胞の間を行き来して、情報を伝えるメッセンジャーのような働きをしています。脳内には、約140億のニューロンと言われる神経細胞があり、それぞれ独立して存在していて、その神経細胞の先端にある突起(シナプス)から神経伝達物質が放出され、別の神経細胞の受容体(レセプター)が受け取る仕組みになっていて、そこで双方の情報が交換されているのです。

 神経伝達物質は、これまで約50種類の存在が確認されており、主なものにセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン、アセチルコリンなどがあり、この中でうつ病と関係している神経伝達物質としては、セロトニンとノルアドレナリンではないかと考えられています。セロトニンは、体温の調節や感覚知覚、睡眠の開始などに関与している物質で、不安を抑え、平常心を保つように働きます。この作用が低下すると、イライラや不安、睡眠障害、衝動的な自傷行為を起こしやすくなります。一方、ノルアドレナリンは興奮性の物質で、覚醒、集中、記憶、積極性などとかかわり、不安や恐怖とも関係しています。危険を感じると、ノルアドレナリンが働き、血液を筋肉に送り込んで、心拍を速めたり、血圧を高めたりします。うつ病のときは、このセロトニンとノルアドレナリンの働きが低下することがわかっています。このような変化は、定型うつ病においてわかっていることです。

 では、非定型うつ病にいては、どのような変化があるかというと、セロトニンの場合では、定型うつ病のような低下は見られません。パニック障害と併発する非定型うつ病では、むしろセロトニンの働きが高まるという報告もされています。また、パニック発作のない非定型うつ病では、アセチルコリン受容体が過敏になっていて、レム睡眠といわれる浅い眠りとかかわっています。また、非定型うつ病の症状である眠気やだるさを改善する薬は、ドーパミンに作用するものが多いことから、ドーパミンの異常が推定されるのです。

子供の頃の育ち方(養育歴)

 本来ならば、親の愛情を受け、見守られながら育つはずの幼少期に、親からの虐待を受け、離別体験をすることで、強いストレスが脳の発達に影響し、精神障害の発症に深くかかわっているものと思われます。幼児期の脳は3歳までにその90%が発達すると言われます。したがって、この時期の母親との関係は非常に大切で、母親から抱きしめられて育つことで、自我が育まれ、信頼感が生まれてきます。特に、母親の子へのスキンシップは、抗ストレスホルモンの遺伝子を活性化させることが、動物実験で明らかになっています。

 一方、子供時代に親から虐待やネグレクト(育児放棄、または怠慢)などを受けると、PTSD、パーソナリティ障害、アダルトチルドレンなどの精神障害を引き起こすことが、これまでの研究で明らかにされています。うつ病の人の養育歴を追跡調査した報告によると、子供時代に、@母親の子育て態度の異常、A両親の別居または離婚、B11歳以前に両親のいずれかと別離、C転居、D教師から問題児と評価、E内気な子供、などを経験しています。非定型うつ病に限ってみると、@性的虐待、A身体的虐待、Bネグレクト、といった経験を子供の頃にした人に多く発症しています。

 本来、守ってくれるはずの親から虐待を受けると、心に傷を負い、心の平穏が失われ、また虐待がいつ行われるか不安と緊張の連続です。子供の時代のこうした経験は、脳の発達に強く影響し、それがうつ病の発症の要因にもなっているものと考えられます。激しいストレスが、脳の一部の発達を阻害し、脳自体の機能や神経構造に、永続的にダメージを与える可能性があるとされています。危機的な状況に遭遇すると、脳の大脳辺縁系(海馬や扁桃体)が恐怖感を抱いて反応し、危機が度重なると、過剰な反応が繰り返され大脳辺縁系は常に過敏状態になって、ほんの些細なことでも、激しい恐怖感を抱いたり、攻撃的になったりするといわれています。

社会環境・家庭環境

 現代の社会環境は、驚くほどの早さで日々変化しています。特に情報は、テレビやインターネット、携帯電話、新聞やラジオ等で、洪水のごとく流れてきています。知りたい情報は瞬時に手に入れることができ、買いたい物はどこに行っても手に入ります。労働環境も激変しています。大量の情報を処理し、スピード化と効率化と実績第一主義が求められ、企業は激しい競争に勝ち残っていかねばなりません。社員は息の詰まるような緊張感とプレッシャーのなかで、懸命にパソコンと向き合う日々です。また都会は、24時間どこへ行っても昼間のように賑やかで、若者たちにとっては昼夜逆転の生活も当たり前のようになってきました。確かに便利な世の中になってきましたが、反面私たちの生活にはゆとりがなくなって、心は焦りと不安ばかりが募る殺伐とした社会になってきています。

 一方、家庭においても同じです。核家族化が進み、子供も一人っ子の家庭が増え、父親は仕事でほとんど不在の日々が多く、家庭は母親と子供だけになっています。その母親も、昼間は働きに出かけ、子供への育児もままならず、食事も満足に食べさせていない家庭も少なくありません。このような家庭環境では、母親もストレスをかかえて生活し、心を病んで、ついには子供への虐待を繰り返すようになります。また、最近おおくなっている離婚や別居などが、子供の心に大きな傷となって、強いストレスとなっています。こうしたさまざまな社会環境が激変するなかで、親も子供も心のバランスがくずし、いつうつ病が発生してもおかしくない状況にあります。特に、今日の社会的な背景が、非定型うつ病を発生させる大きな要因になっていることは避けられないと思います。




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